腸内細菌と病気:造血幹細胞移植・免疫療法による腸炎・帝王切開

この1週間、腸内細菌といろいろな病気・病態との関連性を示す論文が目についた。

一つ目はCell誌に報告された「High-resolution analyses of associations between medications, microbiome and mortality in cancer patients」というタイトルの論文だ。

造血幹細胞(いろいろな血液細胞を作るもととなる幹細胞)移植を受けた患者さんの腸内細菌を調べたところ、抗生物質の投与によって腸内細菌の種類が変わることや、細菌のパターンによって分類すると予後が悪い不健康パターンがあることを見つけた。

この結果は、腸内細菌移植をすると予後の改善につながる可能性を示したことになる。また、下剤・制吐剤・オピオイド投与なども腸内細菌に変化を起こすようだ。

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二つ目はScience Translational Medicine誌に発表された「Microbiome alteration via fecal microbiota transplantation is effective for refractory immune checkpoint inhibitor-induced colitis」というタイトルの論文だ。

クローン病や潰瘍性大腸炎に対して、健康な人の腸内細菌を移植すると症状が改善することはよく知られている。他人の腸内細菌と聞くとあまり気持ちはよくないのだが、効果はあるようだ。

この論文は、がんの免疫チェックポイント阻害剤によって引き起こされた自己免疫性の腸炎に対しても、腸内細菌移植が有効だったという内容だ。ステロイドが無効だった12人の患者に対して腸内細菌移植を行ったころ、10名に効果があったという(3人は複数回の腸内細菌移植が必要だった)。腸内細菌によって、腸内、全身の免疫環境が変わる。腸内細菌、恐るべしだ。

3つ目は、「Effects of vaginal microbiota transfer on the neurodevelopment and microbiome of cesarean-born infants: A blinded randomized controlled trial」というCell Host &Microbe という雑誌で報告された論文だ。

帝王切開で生まれた赤ちゃんを二つのグループに分けて、母親の膣内細菌を移植したグループとそうでないグループの脳の発達を比較した論文だ。日本では絶対に倫理委員会が了解しないような研究内容だ。自然分娩では膣内を通過する際に、母親の膣内細菌が赤ちゃんに触れることになるが、帝王切開だとそれがなく、その結果として腸内細菌叢の構築に違いが出るようだ。

ホンマかいなと思いつつ、自然分娩と帝王切開で生まれた子供の脳の発達に差があるのかどうかを調べたところ、2019年のJAMA-Network Open誌に2千万人に上る出産を比較したデータが報告されていた。

帝王切開では自然分娩に比して、自閉症スペクトラム(ASD)のリスクが1.33倍高く、注意欠陥多動性障害(ADHD)のリスクが1.17倍高いと報告されていた。この2項目は統計学的にも有意な差があった。といっても、この結果から膣内細菌の移植には大きな飛躍があるので、なかなか私のような平凡な研究者には思いつかないアイデアだ。帝王切開に至るには、それなりの課題があるので、なかなか思いつかない発想だ。

しかし、彼らの基準で脳の発達を調べたところ、6か月後の脳の発達には膣内細菌移植群と非移植群の帝王切開出生児間で差があったという。話の流れからわかるように、細菌移植群が発達がよかった。本当にあっと驚く細菌、恐るべしだ。


編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2023年6月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。