連日のように報道されるマイナンバーカード問題。傍で見ていて情けないと思うと同時に日本政府が主体性を持ってやると必ずうまくいかないことを改めて見せつけたと思います。
私が日本政府が新たな制度を取り入れることが不得手だと実感したのがコロナ禍の際の支援金や海外からの入国規制を管理するアプリなどの設計です。コロナの際には様々な支援金がこれでもか、という程生まれ、大盤振る舞いの感すらありました。私は当時、外務省が作った海外における日系団体の支援プログラムに応募し、それが認定されました。もちろん、海外の支援団体ぐらいの申請数ですから全体としても少ないこともあるのでしょう、とにかく申請の手間暇たるや途中で止めたいと思うほど面倒で細かいやり取りの連続。
しかし、それらのやりとりをしているのは外務省が発注した外部業者で、外部業者は外務省から事細かい指示を受けているのでその通りやらねばならず、馬鹿々々しいほど一字一句について質疑の応酬が繰り広げられたのです。そして、支援頂ける事業は事業費を当方が立替えたものの後払いなのでウン百万円の資金繰りをして全部の領収書や支払い証明を添付して事業終了後2か月ぐらいしてようやく頂けたというのが顛末です。せめて完了後にアンケートの一つでも取ればよいのに、と思ったのに役人はそういう発想は皆無なのでしょう。だから改善が一切できないのです。
領収書と言えば、日本は領収書文化で支払いの証はほぼすべてのケースで必要です。例えば諜報業務を行う部門でも領収書が必要で諸外国の諜報部門からすればお笑い草です。(領収書からスパイの足がつきます。)戦前は領収書なしの裏金がバンバン出ていたのですが、今ではもちろん完全御法度です。
コロナ禍の際に日本に入国する際のアプリも酷かったです。あまりの使い勝手の悪さに「こりゃ大学生が作るアプリの方がまだまし」と思えるほどだったその理由は指示をする官庁が会議などで基盤のプランを作った後、次々と付け足しをしてシステムのAdd On方式にするからだとみています。つまり、初めからこういうものを作るという話ではなく、とりあえず、基礎と骨組みと作って内装は後で考えて付け足せばいいよね、という発想なのです。日本人の会議好きが祟っているとも言えます。
ではマイナンバーカード。様々な意見が出ているので現状の問題点は絞り出されていると思います。個人的に最大のエラーの一つは戸籍法に基づくフリガナ入力がなかったことで大きな混乱をきたしたと思います。銀行などはフリガナは入るわけで戸籍法そのものが旧態依然としていて、先の国会でようやくそれが改正されたわけです。想像するにその問題は当然、当初から会議などで指摘されていたものを「法律はそんなに簡単に改正できないし、そもそも戸籍全部にフリガナなんてつけられない。何とかしろ!」から始まったのだと思います。おまけに「〇〇日までにできないとダメだ!」という期限を切られて無理に無理を重ねた設計だったのでしょう。
これは先のコロナ禍の各種支援金支出の問題とほぼ重なるのです。
そしてそのマイナンバーカードは現在のカードが生まれた2016年から10年目の節目である2026年にそっくり作り変えることになっています。その賛否もあるようですが、個人的な意見としては「そもそも個人番号を政府の管理書類と紐づけるという歴史があまりにも遅延しました。それを受けて全てのことを一枚のカードに内包させようとした状態で現在、マイナンバーに紐づく各種サービスは30近くあります。よってエラーが起きない方がおかしいのです。しかし、今更止められるものではないので多少の失敗は今後も起こり、26年の新カード発行の際にも発生することを前提に修正を重ねながら5-10年かけて完備するしかない、と考えています。
例えば私のカナダのカード(Social Insurance Number: SIN)は連邦政府発行の番号で税務申告などの本人確認ではよく使います。雇用の際にも必要です。ただ、それ以外ではほとんど使うことはないのです。例えば私が住むブリティッシュコロンビア州では健康保険証と運転免許が一体になっていますがSINとは別です。日本のマイナンバーに当たるSINのカードを普段、財布に入れて持ち歩く人はほとんどいないと思います。同様に私は移民権者なので移民カード(PR Card)があるのですが、これも海外からの入国の時以外は使わないのでパスポートホールダーに入れるだけでそれ以外は見ることもないのです。
もちろん、この制度は現代のようなコンピューターが普及する以前に作られた仕組みだからとも言えますが、アメリカのSocial Security Number の汎用性もさして差はないと思います。ちなみにアメリカのSSNは一度取得すると一生ものだったと記憶していますが、カナダのそれはカナダでの在留資格がなくると抹消されます。基本的に私の感覚としては北米が連邦政府と州政府の自治独立性の問題もあり、カードでワンストップ的な利便性を持たせてはいないし、そこまでの必要もないと思います。
もちろん、現代社会ではどんな複雑な設計もできるので個人番号制度後進国である日本だからこそ、最新のテクノロジーと制度設計でワンストップにすることは可能だと思いますが、無理しなくてもよい気もします。北米のカードのそれが個人の存在と税務を主に紐づけているのに対して日本の各種サービスのぶら下げ方はやりすぎだと思います。
将来、日銀がデジタルカレンシーを発行したらそのカレンシーもマイナンバーカードに紐づける公算はあります。しかし、それはいくら何でもシステムへの負荷が大きすぎると思います。おまけにバックアップが無くなることでむしろリスクが高まるのかな、という懸念は生まれると思います。
今、健康保険証で紙を併用させよ、と声が上がるのはバックアップの発想であり、岸田氏は紙をなくすならリスクをどう担保するのか、示さねば国民は納得しないでしょうね。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年6月23日の記事より転載させていただきました。