ChatGPT全盛時代に士業が生き残るために必要なテクニック(古尾谷 裕昭)

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IT化が叫ばれた時代から、テクノロジーの進歩で淘汰される職業として取り上げられてきた弁護士や税理士などの「士業」。現在、ChatGPTをはじめとしたAIが急激に進化を続ける中、多くのメディアが改めて士業を「なくなる職業」として挙げていますが。果たして本当に士業という職業はなくなってしまうのでしょうか。

士業向けのコンサルタントであり、自身も行政書士として20年以上も士業として活動する筆者の立場から、それでも生き残る方法は無いのか、士業の活路を考えたいと思います。

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相続手続きから考える「顕在化された問題」と「潜在的な問題」

まず、ChatGPTのような質問や相談に回答するAIチャットによって、士業への相談は確実に減少すると予想されます。実際、筆者が現場の士業から聞いた限りでも「これからはIチャットに相談することが増えると思うので、相談料を下げてほしい」とクライアントから要請された税理士も存在します。

AIによる相談業務への影響は避けて通れません。。質問をすれば回答が即座に出てくる、しかも士業に聞くよりも回答スピードは圧倒的に早い。更に価格は無料。ChatGPTの有料プランであるGPT-4でもたったの20ドル、円安の今でも3000円もかかりません。

それでは多くの人が本当に士業を頼ることはなくなってしまうのでしょうか。

AIチャットの特徴は、適切な回答を得るには適切な質問が必要だということです。これは長所でもあり、また短所でもあります。例えば、相続の問題が起きたとき、適切な質問ができれば、良い解決策をAIが示してくれる可能性は高いはずです。

一方で、抽象的な質問には抽象的な回答が返ってきてしまいます。ChatGPTでよく聞く「間違った回答が返ってきた」「堂々と嘘をつかれた」あるいは「当たり前すぎる回答で大して役に立たない」といった話です。そういう意味では、AIはまだ使う側の質問力が問われるツールです。

見える問題と見えない問題

さらに重要なことは、士業が関わる法律問題には「顕在化された問題」と「潜在的な問題」があります。

先程の相続の例で考えてみましょう。例えば家族の誰かが亡くなって、財産を相続しなければならなくなったとします。一般の人は考えます。「どのように遺産を分けようか」と。そして、手続きをAIチャットに聞き、手続きの流れを把握。あとは各種の機関で手続きを進める。

相続手続きを進めるには一見なんの問題もないように見えます。しかしこれはあくまでクライアントが「顕在化できた」、つまり認識・把握した問題に関するものだけです。

AIは聞かれたことにしか答えない

例えば、相続財産というと目に見える不動産や金銭がその主な対象です。しかし、実際には借金などの「負の財産」も相続されます。もし、故人となった被相続人が家族に隠れて個人的な借金をしていたら、それは気づきようがありません。

相続財産を遥かに超える借金などがあった場合、一般的には「相続放棄」と言って相続を放棄することができ、これによって借金を相続することもなくなります。しかしながら、相続放棄は一部の放棄が認められておらず、財産だけ相続し、借金は相続しないということは認められていません。

ですから、被相続人の借金を知らないまま、目に見える相続財産を相続してしまうと、自動的に借金まで相続してしまうことになります。AIは聞いていない事を先回りして教えてくれるほどまだ親切ではありません。

このように、クライアント自身がすべての問題に気づけているわけではないのです。そこに士業の活路があります。ほかにも、相続手続きは借金等のマイナスの相続財産まで特定でき、無事相続手続きが済んだとしても、相続税の検討がされていなかったら、せっかく相続した不動産を相続税の支払いのために売却しなければならない、ということも考えられます。

当然、質問に答えるだけで様々な手続きもやってくれません。

顧客の潜在的ニーズをいかに引き出すか?

つまり、士業が生き残るための活路は、潜在的ニーズを引き出すことにあります。もちろん、その潜在的ニーズを引き出すためには、ヒアリング力やそのベースとなる人間関係の構築。そしてその潜在的ニーズに対応できる知識量や提案力が必要です。

これは企業法務などでも同じです。行政手続きのオンライン化やAIの台頭でその存続が危ぶまれています。行政書士は各種の許認可取得手続きを主な業務としています。単に手続きだけを行っていたらAIに取って代わってしまうでしょう。手続きにはゴールがありますので、そういう意味ではAIとの相性も良いと言えます。

となれば、顧客と接点があったときに、単に相談を受けるのではなく、経営に関するヒアリングをきちんと行い、その情報から様々な提案をすることが重要です。

ヒアリングから仕事が生まれる。

例えばヒアリングの結果、この企業には受給できる補助金や助成金がある、あるいは決算書から見ると金融機関からの借り入れにベストな時期であるなど、相続の相談と同じく、経営者にも気づいていない問題やニーズがあるものです。

ヒアリング力を起点とした潜在的ニーズへの提案はあくまで士業が生き残るためのひとつの技術です。ほかにも士業として存在し続ける様々な考え方や技術があり、メディアで言われるほど私は悲観的には考えていません。

しかしながら、単に資格を取っただけ、従来通りの代行的な定型業務だけで士業の経営が厳しいことは言うまでもありません。国家資格を取るだけでも大変ではありますが、士業はよりこうした技術研鑽や高度専門領域、ニーズを汲み取るスキルを持つための努力が求められます。前向きな見方をすればより努力が報われると見ることもできます。

最後にもう一つだけ付け加えると、士業はオワコンという意見が増えてそれを鵜呑みにする人が増えるのなら、ライバルが減って有利になります。自分の頭で考えられない人が増えるほど、自身の頭で考えて失敗を恐れずチャレンジする人は有利になります。

筆者は今後も士業向けコンサルタントとしてAI時代に士業が生き残るための技術、そして考え方の研究とリサーチを続けていくつもりです。

古尾谷 裕昭 税理士 ベンチャーサポート相続税理士法人代表税理士
1975年生まれ、東京都浅草出身。2017年にベンチャーサポート相続税理士法人設立。相続専門の司法書士・弁護士・行政書士・社会保険労務士・不動産会社・保険販売代理店・金融商品仲介業者からなるベンチャーサポートグループの中核を担う「ベンチャーサポート相続税理士法人」を代表税理士として率いている。10万人のチャンネル登録者数のYouTube『相続専門税理士チャンネル』を運営。

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年6月26日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。