米5月個人消費支出とPCE価格指数は、コアの前年同月比が市場予想を下回るなど、ゆるやかながらインフレ鈍化を確認しました。FF先物市場では7月25~26日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での0.25%の利上げ織り込み度が86.8%と前日の89.3%から若干低下した程度です。
一方で、年内の利上げ予想は1回で変わらず。2024年は直前の織り込み度では3月まで据え置きが優勢だったところ、3月の利下げ転換見通しに若干シフトしました。
パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長は、欧州中央銀行(ECB)の年次カンファレンスで「追加利上げの可能性がある」と発言した半面、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙のFed番記者、ニック・ティミラオス氏のツイッターなどでは年内2回の利上げは選択肢として維持しつつも、米景気動向次第とのスタンスを示します。
またFedのコミットメントは「利上げの回数ではなく、インフレ率を2%へ回帰する上で十分引き締め寄りな姿勢をもつこと」と発言しており、FF先物市場は1回の利上げを織り込みつつ、あとは様子見を決め込んでいると言えます。
チャート:2023~2024年までの金利見通し、米5月PCE発表1日前(上)と発表直後(下)
米5月個人消費など一連の結果は、以下の通り。
米5月個人消費支出は前月比0.1%増と、市場予想の0.2%増を下回った。前月の0.6%増(0.8%から下方修正)を下回り、5カ月連続でプラスとなった。
〇個人消費支出
個人消費の結果は以下の通り。名目ベースは増加した半面、インフレを除く実質ベースは減少した。
・前月比0.1%増と5カ月連続で増加、市場予想の0.2%増を下回る、前月は0.8%増(0.6%増から上方修正)
・前年比では6.0%増と21年1月以降の増加トレンドを維持、前月は6.6%増
・実質ベース前月比横ばい、過去4カ月間で3回目の横ばい、前月は0.2%増
・前年比では2.1%増と21年3月以降の増加トレンドを維持、前月は2.2%増
耐久財は自動車・部品が前月比3.0%減と前月と反対に押し下げたほか、ビデオ・オーディオ機器も0.4%減とマイナスに転じた。また、宝飾品は1.0%減と4ヵ月連続で減少した。非耐久財はガソリンが同5.2%減となったほか、タバコも0.4%減と減少に転じた。サービスはヘルスケア・その他サービスが2.8%増、公共交通機関サービスが3.3%増と押し上げた。
個人消費支出の内訳(前月比ベース)
・財 0.5%減と過去4ヵ月間で3回目のマイナス、前月は0.9%増
・耐久財 0.9%減と過去4ヵ月間で3回目のマイナス、前月は1.0%増
・非耐久財 0.3%減と過去3カ月間で2回目のマイナス、前月は0.8%増
・サービス 0.4%増と27ヵ月連続で増加、前月は0.5%増
チャート:個人消費、前月比の項目別内訳
チャート:個人消費、前月比ベースでの名目と実質の違い
〇個人所得
米5月個人所得は前月比0.4%増と、市場予想の0.3%増を上回った。前月の0.3%増(0.4%増から下方修正)を超え、16カ月連続で増加した。
個人所得の結果は以下の通り。
・前月比0.4%増と16カ月連続で増加、市場予想の0.4%増と一致、前月は0.3%増
・前年比では5.5%増と14ヵ月連続で増加、前月は5.5%増
・実質ベースは前月比0.3%増、前月は0.1%減
・前年比では1.6%増と5カ月連続で増加、前月は1.1%増
個人所得のうち、名目ベースで賃金・給与は27ヵ月連続で増加し伸びも再加速した。また、家賃収入が引き続き力強い伸びとなり全体を支えた。
なお、米疾病対策センター(CDC)は21年8月、新型コロナウイルス感染予防策対策として、感染率が高い地域を対象に新たに21年10月3日まで住宅立ち退き猶予期間を設定。しかし、家主や不動産団体が撤回を求め提訴し、米連邦最高裁判所が21年8月26日に無効の判断を下したため、販売用物件の減少も重なって家賃の上昇が進行した。足元、新規契約分の家賃は前月比で下落が指摘されているが、家賃は基本1~2年契約のため、下落が反映されるまでラグを伴う傾向がある。
所得の内訳は、名目ベースの前月比で以下の通り。
・賃金/所得 0.5%増と27ヵ月連続で増加(民間は0.5%増、政府部門は0.45増)、前月は0.4%増
・経営者収入 0.3%増と3カ月ぶりに増加(農業は4.3%減、非農業は0.5%増)、前月は0.6%減
・家賃収入 0.1%増と16ヵ月連続で増加、前月は0.8%増
・資産収入 0.3%増と16ヵ月連続で増加(金利収入が0.5%増、配当が0.1%増)、前月は0.4%増
・社会補助 0.3%増、前月は0.1%減
・社会福祉 0.4%減、前月は0.1%増(メディケア=高所得者向け医療保険は0.2%増、メディケイド=低所得者層向け医療保険は0.9%増、失業保険は2.1%減、退役軍人向けは0.6%増と増加基調を維持、その他は0.3%減)
チャート:個人所得、前月比の項目別内訳
〇可処分所得
・前月比0.4%増と16ヵ月連続で増加、前月0.3%増
・前年比は8.0%増と13ヵ月連続で増加、前月は8.0%増
・実質ベースの可処分所得は0.3%増、前月は0.1%減と10カ月ぶりに減少
・前年比は3.4%増と4ヵ月連続で増加、前月は3.3%増
〇貯蓄率
・4.6%と、2022年1月以来の高水準。ただし、2019年平均の8.8%以下が続くが、1959年のデータ取得以降で3番目の低い伸びとなった2022年6月につけた2.7%から改善基調を継続、過去最低は2005年7月の2.1%。
チャート:個人消費の伸びが鈍化し、貯蓄率を小幅押し上げ
〇個人消費支出(PCE)価格指数
Fedの積極的な利上げを経て、コアPCEの前年同月比は市場予想を下回った。
・PCE価格指数は前月比0.1%上昇、市場予想の0.2%を下回る、前月は0.4%
・前年比は3.8%上昇と市場予想の3.9%を下回り2021年4月以来の低い伸び、前月は4.2%
・コアPCEデフレーターは前月比0.3%上昇、市場予想と一致、前月は0.4%
・コアPCEの前年比は4.6%上昇と市場予想の4.7%を下回り2021年10月以来の低い伸び、前月は4.7%
チャート:5月はゆるやかなインフレ鈍化を確認
――5月は個人消費支出に加え、PCEの前年比は2021年4月以来、コアPCEは2021年10月以来の低い伸びとゆるやかながら鈍化を確認しました。ただ、コアは未だインフレ目標値の2倍以上で、高止まりしたままと言えます。
個人消費を占う上で注目された米6月ミシガン大学消費者信頼感指数・確報値は64.4と、速報値の63.9から上方修正されました。現況指数も64.4(速報値は63.9.)、期待指数も61.5(速報値は61.3)と、そろって前月以下ながら速報値から上方修正に。とはいえ、ヘッドラインと現況指数は年初来で最低、期待指数は2022年7月以来の低水準でした。やはり、米利上げの影響と長引く高インフレで、個人消費のセンチメントは下向きつつあります。
センチメントの改善は、インフレ鈍化が一因です。1年先インフレ期待は3.3%と速報値通りながら、前月の4.2%を下回り2021年3月以来の低水準となりました。5年先インフレ期待も速報値通り3.0%と前月の3.1%以下でした。
チャート:米ミシガン大消費者信頼感、短期のインフレ期待が著しく改善しセンチメントを押し上げ
ミシガン大学の消費者調査担当ディレクターのジョアン・シュー氏は結果を受け「全ての層でセンチメントが改善したが、この背景は米債務上限問題の妥結に加え、インフレ鈍化を反映している」と説明しています。しかしながら「高止まりする物価が引き続き消費者の重石となっているため、経済状況に対する見方は横ばいだった」と慎重な見方も寄せました。
米住宅指標に加え、コアインフレの高止まりや消費者信頼感指数は追加利上げの蓋然性を高めますが、少なくともFF先物市場はそうしたFedの予想をまだ信じていないようです。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK –」2023年6月30日の記事より転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。