増税で環境は良くならない:森林環境税に反対し、条例改正に賛成する理由

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国会で成立した森林環境税は地方税で徴収される

目黒区では、令和5年度の第二回定例会が閉会した。今回の条例改正案の1つの中の、そのまた1つの項目に、森林環境税に関わる条例改正があった。私は目黒区議会議員として、この条例改正に賛成したが、森林環境税には反対である。ただ、法律は国会で決議するので、税法への反対は地方議員としての一意見にすぎない。

地方自治体には、法定受託事務として、法律で決まった内容に基づき、自治体での対応が必要な事務を処理する義務がある。これに基づき、各自治体で条例改正案を出し、法律の変更に合わせた条例の文言修正をして、法律に基づく事務処理を行うというわけだ。

森林環境税は、住民税に上乗せして徴収するスキームのため、目黒区なら目黒区特別区税条例といったように、各自治体が住民税の徴収について定めた条例を修正する必要がある。

住民へのわかりやすさを取るなら条例改正反対だが・・

多くの住民に、森林環境税に反対だという意向を示すには、条例に反対した方がわかりやすい。しかし、自治体で反対多数で条例改正が否決されたところで、国会での森林環境税創設の議決が覆るものではない。むしろ、法律で決まった事を自治体で実施できないとなると、地方自治法の考え方に反し、制度の間に陥ってしまう。

ゆえに、この手の法律の変更に伴う文言修正のための条例改正については、私は基本的に賛成している。中には、自治体の裁量を許すような内容の法律もあるので、場合にもよるが、この森林環境税については、個人住民税均等割に1,000円上乗せということで決まっている。森林環境税に反対の私が、条例改正に賛成するのは、こうした制度事情を考慮するためだ。

実際のところ、法律で決まった以上、自治体にはそれを拒否するという選択肢はない。拒否ができるようであれば、ゴネ得ということになり、法律に従わない自治体がいくつも出てきてしまう。ゆえに、こうした法律に基づく条例改正は現実的には避けられないとも言える。「法律には反対だが、その法律に基づく条例には賛成」という、ややこしい事情を説明することで、国と地方の実情を知ってもらえたら幸いである。

次に、この森林環境税が、いかにおかしな税かをお伝えしていこう。

森林環境税は、お金配りが5年も先行して実施されている

森林環境税による住民税の上乗せは来年2024年度からだが、森林環境税自体は、2019年に創設されている。森林環境税は、森林環境贈与税とセットで成立しており、この森林環境贈与税で、自治体へのお金配りが先行して開始した。

「森林整備が緊急の課題」として、先行して2019年から全国の自治体に補助金配布が始まった。目黒区には森林環境贈与税として、毎年2000万程度の補助金が入ってきている。目黒区のような都会で、この補助金を何に使うかというと、生物多様性の保全とか、木材を使用した家具や遊具を購入するとかであり、全く緊急性はない。それどころか、実に全国で20%もの自治体が、使い道がなくて全額基金に積み立てているというありさまだ。

全国の自治体から税金徴収するので、不公平のないよう全国の自治体に補助金を配る。そしてその補助金額の基準は、森林の面積や林業就業者数、人口を元にしているので、森林が殆どない大都会にも多くの補助金が配られる。実に、矛盾が矛盾を呼んでいる。

負担感を感じさせない巧妙な増税

お金配りの仕方も矛盾だらけだが、お金の徴収の仕方も実に巧妙だ。

この図の通り、これまで復興増税として、2014年から10年間、個人住民税均等割額に上乗せして毎年1,000円徴収されていた。なので、本来なら2024年度からは住民税が1,000円下がるはずだが、この1,000円ぶんが、名前を変えて森林環境税として新たに徴収されることになる。

区民としては支払う住民税の総額に変わりないので、「新たな負担増」とは感じられにくい。ゆえに、徴収しやすいと考えたのだろう。まったく、巧妙で嫌なスキームだ。

環境を良くしたいなら、増税ではなく環境減税だ

配り方を変えればいいとか、増税の前に身を切るとかではなく、そもそも環境保護のために増税は必要ない。高知県など、以前から独自で森林環境税を作っている自治体もあるが、その税収の多くは啓発事業に使われている。

更には、「環境税のおかげで環境が良くなったので、環境税を廃止します」なんていう話も聞かない。今回の森林環境贈与税がおかしな補助金配りになっているように、増税してお金を配っても矛盾が多く、結果として半永久的に環境税が取られるだけだ。

ちなみに、高知県では、県独自の森林環境税と区別するために、この森林環境税を、「国の森林環境税」と呼んでいる。恐るべし二重課税だ。

環境を良くしたいなら、むしろ、環境保護に貢献した企業などに減税をすべきではないか。