「伊藤さん(著者)、この国って、ほんとうに民主主義なのかなあ?」
世界最大の民主主義国、共通の価値観、対中包囲網…。インドを語る際に象徴的に使われるこれら数々の言葉は決して間違ってはいないが、しかし私たち日本人の過剰な期待と幻想がそこには込められている。日本人の視点で都合よくインドを解釈すると、多くの人は現地に降り立って直ぐにその実態に戸惑う。
菅義偉前首相が故・安倍晋三元首相の後を継ぐ形で就任した日印協会の会長として、7月4日から7日の日程でインド訪問することが発表された。岸田外交を民間側から補完し多層的に日印関係を強化する目的は明確ではあるが、本書を読めば決して多くを望むべきではないことも良く分かる。
全方位外交と八方美人の境界線は曖昧だが、地政学上の制限が、そのどちらとも取れるインド外交を形作る。明確なウクライナ侵略をもってしても、正面からロシア批判を避けるインド。軍隊同士の衝突で同胞に死者を出しながらも、中国に配慮するインド。クアッドで自由民主主義陣営と固く握手しながら、国内では少数民族やイスラム教徒を弾圧し、ヒンズーナショナリズムを煽るインド。
矛盾するかのような要素を併せ持つのが、現代インドのもう一つの顔である。
「インドという国とは、いくら嫌でも、厄介でも、やはり関わらざるをえないのだ」
インド研究者の著者は、日本人がインドに対して抱く一方的な想いへの誤りを指摘する。しかし様々な矛盾を抱えながらも、日本が国際社会で生き残るためにはインドの力が必要であることも併せ説く。過剰な幻想は捨てて国益のために割り切った付き合い方することが、結果として両国のためになるという論理だ。
インドの国土は、限りなく広い。欧州とほぼ同じ広さの国土は、当然のことながら多様だ。浅黒い外見のインド人は一見均質であると勘違いしがちだが、同じ広さの面積にフランス語、ドイツ語、イタリア語など様々な言語が存在する欧州と事情は同じ。インドを単一基準で判断することなど到底出来ない。
外から見ても内から見ても、インドは掴みどころがない国である。そんな現代インドを、まずは本書を手に取って理解するところから始めてはみてはどうだろうか。
■