公明山口代表が2日、政府と東電が「夏ごろ」を目指している東京電力福島第1原発の処理水を海洋放出する時期について、「直近に迫った海水浴シーズンは避けた方がよい」と福島市で記者団に述べた。
筆者は連立与党の代表にある者のこの愚かな発言が、今に至っても慰安婦問題で持ち出される河野談話級の売国発言になると断言する。山口代表は即刻、この発言を撤回して国民に謝罪すると共に、この際、一切の公職から身を引くべきだ。
山口氏は「風評(被害)を招かないように、慌てないでしっかり説明を尽くしていただきたい」ともし、発言に先立つ福島市議選の応援演説では「科学的根拠に基づき、客観的に安全かどうかを確かめられることが大事だ」と強調したという。が、こうした発言自体が処理水の安全性について「風評」を惹起する。
韓国の野党「共に民主党」はほぼ毎日「核排水」「放射能テロ」などの言葉を流す「福島汚染水デマ」で国民の不安を煽る。幸い、日韓関係改善を志向する尹政権の冷静な対応もあって、直近のギャラップ世論調査では、「共に民主党」支持が37%から31%に下落する一方、与党「国民の力」支持は32%から35%に上昇した。
だが6月30日、「共に民主党」は多数を占める韓国国会で「汚染水放出計画撤回要求決議案」を通過させた。中国外務省も6月7日、「海は世界の公共財産だ、日本の下水道ではない」「安全無害というのなら、なぜ日本の国内の湖に流さないのか」などと述べ、批判のトーンを強めている。
山口発言は、これら韓国や中国の福島処理水放出反対論者につけ入る隙を与え、援護射撃にされる、つまり第二の河野談話になる可能性が極めて強い。
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この問題では、6月23日に「読売新聞」が報じたように、中国の原発が放出するトリチウム(三重水素)の量が福島「処理水」の海洋放出の年間予定量と比べ最大で約6.5倍という事実がある。韓国の原発が放出するトリチウムの濃度も福島「処理水」より余程高濃度であることも判っている。
だのになぜ、日本がそれらことを主張して、処理水放出を強硬に行わないのかといえば、海洋投棄に関係する三つ国際法、すなわち、「海洋法に関する国際連合条約(「国連海洋法」)、「1972年ロンドン条約」(「ロンドン条約」)そして「ロンドン条約1996年議定書」(「議定書」)があるからだ。
これらの国際法について、拙稿「福島原発処理水の船舶による海洋投棄はできるか」(19年9月17日)及び「福島の処理水は大阪湾といわず日本中の「内水」に放出せよ!」(19年9月26日)で述べているので、ご参照願いたい。
「ロンドン条約」は、水銀、カドミウム、放射性廃棄物などの有害廃棄物を限定的に列挙して海洋投棄を禁止した。後に「議定書」は、廃棄物等の海洋投棄を原則禁止した上で、浚渫物や下水汚泥など海洋投棄を検討できる品目を例外的に列挙し、海洋投棄できる場合でも厳格な条件下でのみ許可した。
つまり、「ロンドン条約 第四条 廃棄物その他の物の投棄」の「付属書一 投棄を検討することができる廃棄物その他の物」は、1.で①から⑧まで投棄を検討できる物を列挙した後、3.で次のように述べている。
3. 1及び2の規定にかかわらず、国際原子力機関によって定義され、かつ、締約国によって採択され僅少レベル(すなわち、免除されるレベル)の濃度以上の放射能を有する①から⑧までに掲げる物質については、投棄の対象としてはならない。
ただし、締約国が1994年2月20日から25年以内に、また、その後は25年ごとに、適当と認める他の要因を考慮した上で、すべての放射性廃棄物その他の放射性物質(高レベルの放射性廃棄物その他の高レベル放射性物質を除く)に関する科学的な研究を完了させ、及びこの議定書の第二十二条に規定する手続きに従って当該物質の投棄の禁止について再検討することを条件とする。
海洋投棄が検討できる対象物①~⑧に「水」は含まれていない上、「付属書一」の「3.」は僅少レベルの濃度の放射性物質を含む①~⑧を「投棄の対象としてはならない」としているので、「処理水」の海洋投棄はできないと読める。
ならば、世界中の原発冷却水や福島処理水のように陸から海へ放出するという、「ロンドン条約」や「議定書」が想定していないケースをどう考えたらよいだろうか。そこで登場するのが「国連海洋法」だ。同法は、領海、接続水域、排他的経済水域、大陸棚、公海、深海底などの海洋に関する様々な問題について包括的に規律している。
福島処理水の海洋放出が「国連海洋法」に沿うかどうかは、処理水の放出が他国に対する環境損害を発生させるレベルのものではないこと、及び同法の「第百九十二条 一般的義務」にいう「いずれの国も、海洋環境を保護し及び保全する義務を有する」ことが関係する。
具体的には、以下の「第百九十四条海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するための措置」の「1項」に整合するかどうかだ。
1 いずれの国も、あらゆる発生源からの海洋環境の汚染を防止し、軽減し及び規制するため、利用することができる実行可能な最善の手段を用い、かつ、自国の能力に応じ、単独で又は適当なときは共同して、この条約に適合するすべての必要な措置をとるものとし、また、この点に関して政策を調和させるよう努力する。
つまり、「実行可能な最善の手段注1)」であることを国際社会に認識してもらわねばならないと言うこと。世界各国が自国原発の冷却水を海に流しているのは、偏にそれが「実行可能な最善の手段」であることを世界各国が承知し、互いに暗黙のうちに了解し合っているからに他ならない。
ここでの福島処理水の課題は、それが原発の「冷却水注2)」ではなく、デブリに触れた可能性のある放射の汚染水から、ALPSによってトリチウム以外の核種を除去した「処理水」であることだ。この違いに懸念を示す学者もいる。が、「処理水」のトリチウム量は、例えば中韓の原発冷却水のそれよりも少ないことが判っている。
こうした前提を踏まえて、日本政府は腫れ物に触るように、周辺国の同意を得るべくIAEAとも相談しながら丁寧な説明を行ってきている。今回の山口発言は、こうした経緯を根底から覆しかねない危険性を孕んでいる。早期に撤回謝罪して、公職から身を引くべきだ。
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注1)駐日中国大使が4日、「海洋放出は唯一のオプションではない。最も安全・最善な対策でもない」と述べたのは「国連海洋法」のこの文言を念頭に置いていると思われる。
注2)世界で最も多い「軽水炉」から平常運転時に放出される「水」は、厳密には「冷却水」と「中性子の減速材として使われる水」で、後者にトリチウムが含まれる。