現代の奴隷、外国に派遣されるキューバ医師団

コロナ禍の2020年ヨーロッパに到着したキューバ人医師たちはキューバとイタリアの国旗を振っている。
PANAM POSTより

キューバ医師団は命令で外国に行かされる

キューバ政府の外貨を稼ぐ手段として1960年代から始まったのが医療団の外国への派遣である。

キューバ人の医療団が、例えば、アフリカなどで感染病と戦いながら医療活動を続けているのをメディアが取り上げて報道していると、それを見た視聴者は自らの生命を危険に晒してまで外国で医療活動をしている彼らを勇敢な医師たちだと評して感動するであろう。

ところが、実情はそうではない。彼らはキューバ政府の外貨獲得源の餌食となっているのだ。外国に派遣されて奴隷のごとく働かされているというのが実情だ。同政府にとって、彼らが医療活動中に病気に感染して死亡しようが、それは些細なことでしかないのである。

外国で医療活動をするのが彼らの義務なのである。それを拒否すると、医師としての資格をはく奪されるか、あるいは過疎地帯で奴隷のごとく働かされるのがおちである。

医師団はキューバの大事な「輸出品目」

産業の発展を図って来なかったキューバには、輸出できるものはタバコ、砂糖、亜鉛、ニッケル、リキュールといったものしかない。これでは国家の財政を賄って行くことは困難である。

そこで政府が推進したのが、医師団の「輸出」である。それが急成長し、政府が獲得する外貨のほぼ半分近くを占めるようになっている。急成長のきっかけは、ベネズエラで独裁者チャベス政権が誕生してからである。チャベスは自国に医師が不足しているとして、キューバから大量の医師の派遣を要請したのである。それに対して、ベネズエラはキューバに報酬を支払う。それにジルマ・ルセフ大統領政権下のブラジルが続いた

医師の報酬は支払う金額の僅か20%を満たす程度

ところが問題は、政府間のこの報酬の支払い額の中から医師が給料として受け取る報酬は、その僅か20%にも満たないみすぼらしい金額という点である。残りはキューバ政府の歳入となっている。目的地に到着するとパスポートは引率者が保管するのである。

6月13日付「ABC」が報じているが、ブラジルでキューバ人医師が最も多かった時期は1万1000人の医師が働いていたという。特に、彼らが医療活動を実施するのは、現地の医師が行きたがらない過疎地帯である。2013年から2018年の間にブラジルで医師として働いたキューバ人は2万人で、延べ1億1300万人の患者を診たという。

当時、ブラジル政府がキューバに支払っていた金額はユーロ換算で年間2億1000万ユーロ(250億円)。それは一人の医師に2300ユーロが支払われていた計算になるが、その内の1700ユーロがキューバ政府の歳入となり、残り570ユーロが派遣されたキューバ人医師が受け取る月給となっていた。

医師の取り分が僅かでも、彼らの多くは外国に派遣されることを望むのである。何しろ、キューバ国内で彼らが稼ぐ給料は50ユーロに満たない額でしかないからである。また、国内で医療活動をしても処方する薬がないことも良くあるという。

外国に亡命する医師は跡を絶たない

2015年から2018年の間で5万人のキューバ人医師が世界60カ国以上で医療活動をしていたという。それでも、キューバ政府からの待遇に不満で亡命した医師は5000人から1万人いると推測されている。キューバ政府がそれを認めると亡命した医師は8年間は国に戻れなくなる。そして国で生活している彼らの家族は冷遇されることになる。

米国でブッシュ大統領(Jr.)の政権時は米国内での医師の不足を補うためにキューバから亡命した医師を受け入れていた。その数はおよそ2000人と推測されている。例えば、ブラジルの場合だと、嘗てはそこからコロンビアに亡命して、そこで米国の入国ビザを入手していた。現在はそれも容易ではなくなっている。

ブラジルでボルソナロ氏が大統領に成ると、彼はキュー人医師は政府の奴隷になっているとしてブラジルに残って医療活動ができるようにしようとした。が、ブラジルの医師連盟の反対もあって、彼らが医療活動をするにはブラジルの医師の免許を取得する必要があるとした。その為の試験が容易には合格できなくなっている。そこでブラジルに残った2500人余りのキューバ人医師は薬局で働いたり、医療とは全く関係のない仕事に就いたりして生計を稼いでいるという。

ボルソナロ氏が政権を去って左派のキューバに親近感を抱いているルラ氏が大統領に復帰した現在、帰国を拒否したキューバ人医師のブラジルでの医師としての活動はさらに困難になるであろう。

キューバ人医師が不満を爆発

6月16日付の「Panam Post」が2021年にキューバ人医師1111人が国際刑事裁判所と国連にキューバ政府を相手取って告発したことを報じている。内容というのは以下の通りである。

  • キューバ政府の医師派遣のプログラムに75%の参加者は強制的に参加させられた。
  • その契約書を33%の医師は見たことがない。
  • 目的地がどこなのか69%の医師は到着するまで知らされなかった。
  • 76%の医師が医療活動をする場所の人たちと自由に交わることが禁止されていた。
  • 75%の医師が引率者から脅迫されていた。
  • 40%の医師は亡命した罰として彼らの子供たちと会うことを拒否された。

これらの公的機関が公にした告発内容についてキューバ政府は一切沈黙を守っている。