日本再生への道:“知の大循環”をどう構築するか①

畑 恵

毎年恒例の政策研究会「ジャパン・ビジョン・フォーラム(JVF)」、今年は冒頭のタイトルのようにかなり壮大なテーマを掲げ、5月17日に開催しました。

内容も盛り沢山で、前半は「“知の基盤”の重要性と課題」というテーマで、ノーベル賞受賞者で日本学術会議会長の梶田隆章先生と、宇宙物理学者で東京大学特別教授の村山斉先生のお二人から基調講演をいただきました。

後半は「“知の大循環”再構築へのシナリオ」というテーマでのパネルディスカッション。

東洋大学総長で元・大平正芳秘書官や通産省事務次官を務められた福川伸次先生、京都大学名誉教授で複数のベンチャー企業CEOでもある山口栄一先生、そして経営コンサルタントで経済評論家の波頭亮先生という、異色の顔合わせとなる皆様をパネリストにお迎えし、私がナビゲートさせていただいて90分を越える白熱した議論となりました。

これだけ豪華な顔ぶれで今回のフォーラムを催すこととなった背景には、今、早急にこの日本を立て直さなければ、もう本当に手遅れになるという切迫した危機感がありました。

世界における現在の日本の立ち位置や、なぜ今の日本にとって「知の大循環」が生命線と言えるほど重要なのか、その詳細については以下のコラムにまとめてありますので、ご一読いただければ幸いです。

『日本再生の切り札は「知の大循環」の再構築』
  【もはや先進国と言えぬ日本の現状】今月下旬、世界における日本の地位がいかに下落しているを思い知らされるランキングデータが相次いで発表された。一つはスイスの…

今年で28年目を迎える「JVF」も、日本が直面している危機的状況に鑑み、もはや単なる勉強会を実施している時ではないと判断し、今回から日本再生に向けた“ムーブメント”を起こす基地として機能できるようバージョンアップし、新たなスタートを切ることとしました。

そこで掲げたのが、「日本再生への道〜“知の大循環”をどう構築するか」というテーマです。

実は同様の問題意識を抱える各界の皆さんと昨年から、「“知”の力」によって日本を甦らせる「Nippon フェニックス・プロジェクト」という活動をスタートさせ、これまで4回ほどブレーンストーミングを重ねて来ました。

梶田隆章先生と村山斉先生もこのプロジェクトのコアメンバーで、大変ご多忙の中で何度も深夜まで長時間の議論に参加して下さり、今回のJVFで視聴した基調講演もその際に収録したものです。

5月17日のフォーラムの模様はこれから3回シリーズのYouTube動画でご紹介しますが、今回は主催者である私から「新生JVF」や「フェニックス・プロジェクト」立ち上げに至った経緯と、目指している「知の大循環」システムの概要についてお話しした冒頭部分の動画をご覧いただきます(講演やパネルを見たいのに・・・という皆様には大変申し訳ありません)。

資源に恵まれない極東の島国に過ぎない日本が、なぜ世界の大国と比肩しうる国際的地位を得るまで発展できたのか、その平和と繁栄を支えて来た根源的な力とは何なのか。

歴史を振り返って考察すると、日本という国が長い歴史の中で育んできた高度な「科学技術力」や「文化力」、そしてそれらを生む「教育力」などの力を総合した謂わゆる「知力」こそが、日本を先進国へと押し上げて来たコアなる力であることに気づかされます。

「教育は国家百年の計」という言葉や、長岡藩の「米百俵」の逸話に象徴されるように、古来より日本人は目に見えやすい短期的な利益を求めることを“下”とし、何よりまず「知の基盤」へと資金や人材を投資し、人を育て知力を高めることを“上”として来ました。

それが日本の“価値観”であり、辿るべき正しい“道”であり、そのお蔭で幕末も西欧列強によって独立を侵されることなく、開国後は列強に追いつき追い越す大国へと成長することができ、世界大戦で一度は焼土と化しながらも奇跡的な復活を果たし、“Japan as No.1”と称され世界のトップを窺うまでに急成長することができたのでした。

その成長を生んだコア・システムが「知の大循環」です。

知の大循環には大きく分けて、知の育成(教育)や知の創造(研究)が行なわれる「知の基盤」と、イノベーションを起こし富や利便性といったベネフィットが生まれる「価値の創造」という二つの側面があります。

「知の基盤」から生み出されたシーズ(種子)が、「価値の創造」というフェイズにしっかり繋がって花開き実を成らせて富を生み、その富がまた「知の基盤」に流れ込んで土壌を潤し次のシーズを育てる。

こうした循環が「知の大循環」です。

1990年代の中頃まで、日本の知の循環システムはよく機能していましたが、90年後半に行われた大企業の中央研究所廃止と、2004年の国立大学独法化を機に始まった運営費交付金の削減によって、日本の知の基盤は大きく傷つき痩せ細り始めます。

また、知の基盤から価値の創造への“橋渡し”という面でも、有望なシーズを見分ける「目利き」や、リスクを取って大きく育てる懐の深い企業家やマインドも経済界から失われて行き、イノベーションも生まれにくくなって行きました。

かくして、1990年代半ばまで4年連続で世界第一位であった日本の国際競争力は、今や世界で35位、アジア圏だけで見ても14カ国中11位まで下落したのです。

ということで次回のブログでは、梶田隆章先生から日本の「知の基盤」の現状と課題を、また村山斉先生からは日本を救う「基礎学問」の重要性について、それぞれお話しいただいた基調講演の模様を動画とともにご紹介しますので、どうぞお楽しみに・・・。


編集部より:この記事は、畑恵氏のブログ 2023年7月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は畑恵オフィシャルブログをご覧ください。