ホワイト企業では成長できないという勘違い:「イシュー」を見極めろ(滝川 徹)

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「ホワイトすぎる職場は成長出来ない」という理由で大手企業を退職する若者が増えている……。先日そんな記事が話題になっていた※。

努力して入った大手企業、「ホワイトすぎる」という理由で退職する若者が“急増”しているワケ

努力して入った大手企業、「ホワイトすぎる」という理由で退職する若者が“急増”しているワケ(A4studio) @moneygendai
就活でホワイト企業の内定を目指している学生は多いだろう。だがやっとの思いでホワイト企業に入社できても、どこか物足りなさを感じて辞めてしまう若者も増えているという。

成長するために精力的に働きたいと考える若者と、ブラックな職場では社員に逃げられてしまうコンプライアンス重視のホワイト企業の間でミスマッチが起きている、記事ではそんな考察がなされている。

ブラック企業で働く人には羨ましいような話かもしれないが、同様の議論はこれまでもビジネス系のメディアやSNS上でも度々なされており、ハードワークか?ワークライフバランスか?といった話はすでに珍しくない。

しかしホワイト企業では本当に成長できないのだろうか?
成長は長時間労働からしか得られないのか?
そもそも「成長する」とは何を指すのだろうか?

大手企業に勤務する現役会社員であり、生産性を追求する時短コンサルタントの立場から考えてみたい。

maroke/iStock

「成長」とはなにか?

50万部を超えるベストセラー『イシューからはじめよ(2010 英治出版)』の著者で、大手コンサルティング会社として有名なマッキンゼー出身の安宅和人氏は、本書の中で以下のように語る。

フラフラになるまで働かないと仕事をした気にならなかった自身の20代をふりかえり「時間をムダにした」と。

マッキンゼーでは価値のあるアウトプットが求められた。最初のプロジェクトでは数ヶ月の間に500枚ほどのチャートを書いたが、最終報告書で使われたものはそのうち5枚だけ。つまり価値のあった仕事はたったの1%(5÷500)だった。

何も考えずがむしゃらに働いても価値のあるアウトプットを生み出せない。安宅氏は解くべき問題を見極めて「絞る」必要性を説く。これがまさにタイトルにあるイシュー=重要な問題・課題から始めよ、だ。

絞り込みを行えば、重要な問題にかけられる時間が増える。結果として価値のある仕事を生み出す確率は上がる。その結果、よい仕事をして、よいフィードバックを得るという成功体験を重ねればとさらにその確率は高まる。

安宅氏はこれを成長と呼び、「成長は意味あるアウトプットをきっちりと出すことからしか得られない」と説く。意味のあるアウトプット、価値のあるアウトプットだけが求められる世界では、それを生み出す確率が上がることを成長と呼ぶのだ。

たくさん働けば成長できるのであれば、一昔前に長時間労働が当たり前だった時代の会社員は皆立派に成長しているはずだ。しかし現実に起きたことは長期間労働による過労死であり、失われた30年と呼ばれる長期間にわたる経済の停滞だ。

たしかにマッキンゼーのような環境に身をおけば成長はしやすいかもしれない。しかしそんな環境に身を置ける人は限られている。

普通の人が成長するためにやるべきことは転職ではなく、むしろ今の環境で価値のあるアウトプットを出し続けることだ。

ホワイト企業で定時にあがって副業に勤しむという選択肢。

一方で今の環境ではよいフィードバックを得られず成長できない、そんな人もいるだろう。それならば副業という手段もある。

するとホワイト企業に勤めるメリットも出てくる。定時で仕事が終わるのなら、浮いた時間で副業にあてて成長すればいいからだ。人によっては会社で残業するよりそのほうが成長できる人もいるだろう。

成長に必要なことは価値のあるアウトプットを出し続ける姿勢であり、環境ではないと書いた通りだ。それが人によっては副業かもしれない。

一人で副業を行えばフィードバックをしてくれる上司はいないが、利益が出るかどうか?という意味で顧客の反応が最高のフィードバックとなる。顧客と直接接する機会の無い人には本業以上の成長に繋がる可能性は十分にある。

結局、考えるべきは「自分にとって価値のあるアウトプットを出せるベストな環境はどこか」、それだけだ。

ホワイト企業は一度辞めてしまうと再度入るのは難しい。辞めてから後悔をしても遅い。

転職を否定するわけではなく、本業のやり方を改める、副業に活路を見いだす、と転職を考える前に出来る事はあるはずだ。再考のヒントになれば嬉しい限りだ。

滝川 徹(タスク管理の専門家)
1982年東京生まれ。慶應義塾大学卒業後、内資トップの大手金融機関に勤務。長時間労働に悩んだことをきっかけに独学でタスク管理を習得。2014年に自身が所属する組織の残業を削減した取り組みが全国で表彰される。2016年には「残業ゼロ」の働き方を達成。その体験を出版した『気持ちが楽になる働き方 33歳大企業サラリーマン、長時間労働をやめる。』(金風舎)はAmazon1位2部門を獲得。2018年に順天堂大学で講演を行うなど、現在は講演やセミナー活動を中心に個人事業主としても活動している。 

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年7月12日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。