既定路線だった倒産急増:元請けには必ずそのしわ寄せがくる

1-6月の企業倒産件数が4042件と上半期だけを見れば20年ぶりの高水準となったと各紙が報じています。いわゆるコロナの補助金がなくなり通常状態に戻った時、顧客が思った通り戻らなかった、従業員が確保できなかった、物価水準が大きく変わり経営が困難になった…といった具合のほぼ想定通りの理由が並びます。

pianoman555/iStock

本ブログでは2022年4月19日付で「構造改革を伴わない延命措置であれば各種政府支援が切れ、正常化に向かう今年から来年にかけて倒産件数はぐっと増えると予想できます」と述べています。

中小企業の経営は比較的低位安定の場合も多く、従業員も少ないし、家族経営であったりするのですが、その場合、コストの管理は出来ますが、売り上げの変化は外的要因になりますのでコロナの時やポストコロナの時のように人々の行動規範が大きく通常状態と異なる場合、もろに影響を受けることになり、それを吸収できないケースが倒産の主因となります。

もう一つは「真綿で首を絞める」という言葉がぴったりくるのですが、残酷な言い方をすれば真綿で絞めた首がコロナの3年間だけ救命された、ところがリハビリ期間終了でゼロゼロ融資の元本は返してね、と言われて「そんなの忘れていた」という具合なのでしょう。

個人的には23年度の倒産は8500-9000件程度、24年度は1万件を超えてくるかもしれないと予想しています。この数年間で大きな変化が出ると思います。例えばビルに入っているテナントの倒産です。繁華街の飲食店ビルで上層階にある店は昭和のおじさん方がサポートし続けてきた「俺だけの憩いの場」ですが、年齢と共にもう無理となる頃でしょう。当然経営者も賃料が払えないということになります。

日本の飲み屋文化はバブル崩壊以降、ずっと変わり続けてきたのですが、私に言わせれば「客の価値観の変化に飲み屋がついていけなかった」のではないでしょうか?

事業継承に関して日本は良い技術を持っていると言われます。その通りだと思いますが、どの中小企業も全部が全部特徴ある技術を持っているわけではなく、ジャパンスタンダードを維持しているだけで本当に良いものを持っているところはごく一部だと思います。

ジャパンスタンダードとは顧客に対して納期と金額で満足させ、製品もしかるべきレベルにある、と個人的に定義しています。海外と比べればもちろん素晴らしいのですが、とてもドメスティックな会社ばかりで且つ、利益率が非常に低く、従業員にすずめの涙ほどのボーナスしか払えないのです。

理由は発注する側の値下げ要求が厳しく事業利益率が低い中、請ける側はその受注がなければ売り上げの大半が消滅することになり、どんな条件でも飲まざるを得ないというヒエラルキーと日本的上下関係の典型から抜け出せないためです。

こういう企業は徐々に無くなるでしょう。すると元請けには必ずそのしわ寄せがくることになり、コストの上昇を引き起こします。結果として値上げせざるを得ない、これは日本の長期ディスインフレの時代からの脱却となるストーリーの一つの例です。

私は今、失われた30数年からようやく日本が変わる時だと思っています。それは二世代に渡る変化への準備期間がようやく終わりに差し掛かり、昭和の経営者が前線から引くことで経営思想が刷新されることが大きく影響するから、とみています。それにはプラス面とマイナス面があります。プラスは過去を引きずらず、思い切った判断ができること、マイナス面は30数年間、沈滞した日本経済の空気しか知らずに育った若者が競争にどう勝ち抜くのか、その方程式を知っているのか、であります。

例えば金利は1%以下が当たり前だと思っている人が3-4%になった時どうするのか、です。(もちろん極論です。)値上げをしても顧客がついてくる特徴を出せるのか、はたまた経営者が従業員を引っ張るリーダーシップを持ち合わせているのか、などいろいろあるでしょう。IPOしたら一緒に苦労した仲間がさっさと退職したケースは良くある話です。なぜ、「おさらば!」されるのか、お友達感覚なのかな、と思ったりします。

日本からはいよいよ個店が減る傾向が強まり、儲からない地域には店やサービスがない時代が来るでしょう。必然的にコンパクトシティが形成されます。シュリンク経済の中で生き残りを図る、そんな世界を想像しています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年7月14日の記事より転載させていただきました。