医療データ利活用のルールはどう変わるか:規制改革の議論から

医療データビジネスが急拡大する予感

医療データの利活用を取り巻くルールは、変更に向けて今年議論が大きく動く可能性があります。日本は国民皆保険や医療提供体制の整備により、多くの医療データが蓄積されています。

このうち医療機関が医療費の請求に使うレセプトについては、NDB(レセプト情報・特定健診等情報データベース)の活用が研究分野で進んでいます。医療機関で処方された医薬品の種類 、受けた治療の内容などが記録されているため、患者の受診行動の分析に活用できるのがNDBの強みです。一方でレセプトに記録されていない検査値などのデータはこれまであまり活用されてきませんでした。

活用の方法として、個人が複数の医療機関にかかったり、診察した医師が過去の診察情報が必要と考えた場合に、検査値などの医療データを関係する医療機関の間で共有すること(このような活用方法を「一次利用」といいます)が考えられますが、そのために必要な患者の同意取得に手間がかかったり、情報セキュリティへの不安があったりするため、効率的な活用がされていません。

また、患者の医療データを(必ずしもその個人のためではなく)、医薬品などの開発や研究目的で利用すること(このことを二次利用といいます)も技術的には可能であり、医療の進歩に貢献できるものですが、データの収集は個別の医療機関と契約して行うケースが多いため、検査値を含むデータベースが海外に比べると小規模であり、また、そもそも医療機関にとって検査データなどを外部提供することのメリットが見出しにくいという事情もあることから、こちらもあまり進んでいません。

このような状況を一変させる可能性のある制度改正が今年以降行われようとしています。

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医療データ利活用法制の整備が規制改革実施計画に記載

6月16日に規制改革実施計画の閣議決定がありました。この文書において、「医療等データの利活用法制等の整備」が取り上げられています(p62~)。

規制改革実施計画は、骨太の方針、新しい資本主義実施計画に並ぶ格の高い閣議決定資料です。閣議決定はすべての閣僚が全会一致で意思決定するものですから、この資料に記載されると、政府はその政策の実施責任を負うことになります。このため、実現の可能性がかなり高まることになります。

制度改正のタイムラインとしては「令和5年以降速やかに措置」することが明示されています。「●年までに実施」等といった表現と比べると弱いですが、閣議決定資料に記載された以上、いつまでもやらないというわけにはいかないので、早ければ今年中には何らかの検討が開始されることになります。

特に医療データの二次利用が進めば、ビジネスのフィールドも大きく広がります。医薬品、医療機器の開発が促進されるだけでなく、医療データを収集して利活用するビジネスにも広がりが出てきます。

医療データの利活用が大きく進み、患者が受ける医療の質の向上や医薬品の開発、研究の推進など、医療の進歩につながるものですが、企業にとっても大きなビジネスチャンスを秘めている制度改正です。

ただ、せっかく方針が出ていても、閣議決定資料だけを読んでいても何が決まったことで、何が決まっていないことなのかよくわからない、という人も多いはずです。

この後、閣議決定の中でほぼ間違いなく決まっていることと、これから検討すること、場合によっては民間サイドから意見提起するべきことを区別して解説しますので、ぜひ今後の事業展開に役立てていただければと思います。

(執筆:西川貴清、監修:千正康裕)

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2023年7月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。