会長・政治評論家 屋山 太郎
岸田首相は内閣・党人事の変更をした上で選挙を打つことを決めたようである。すぐにも総選挙を打つより有利と判断したのだろうが、考え方自体が間違っている。現有勢力でやれば、何となく勝つだろうとの甘い目算が見えているが、事態は岸田氏の思うほど軽くはない。意外な事態に直面するのではないか。
世論は自公解消と立憲と共産の“離婚”の2つの潮流がある。自民党の保守派はLGBT法案の失敗もあり、保守が譲ったらお終いだと痛切に思っている。
安倍元首相は改憲案を当初、9条そのままでいいと妥協していたが、後半は9条削除と自衛隊を認める明らかな改憲を求めてきた。防衛についても安倍氏の案、「5年間で43兆円の防衛費を確保し、27年度に国内総生産(GDP)比2%に倍増させる」との内容を定めた「防衛財源確保法」が成立した。
この公約を数字も含めて安倍氏がトランプ氏に語ったかどうかは定かではないが、安倍氏がトランプ氏に「日米安保を強化」して米・中対立を均衡化する。そのために中国の経済力を弱める約束をしたことは間違いない。
バイデン米大統領は岸田氏が安倍氏の約束を引き継いだのを知ってか知らずか、岸田氏は西側世界を、ウクライナ戦争をまとめ上げた偉大な人物と評価しているようだ。過大評価されても結構だが、岸田氏が米中の戦略的均衡を心底から願い実行しようとしているとは見えない。日中関係についての言動や、林芳正氏を外相にするなど、哲学に一貫性がない。
改憲公約は限度にきている。その限度の中で公明党が「改憲」と言っているのを幸いに、先延ばししようとしている。党内の大勢は、自公離別は次の次の総選挙にと安逸化する人が多い。立憲と共産の離別も次の次の総選挙。したがって政界再編は「次の次」とみているようだが、世論が固まるのに3年も4年もかかるものではない。一気呵成に「改革」に取り掛かるのが常だ。次の選挙で一挙に改革が行われる可能性が高いということだ。
日本の政治がスピード感に欠けるのは選挙の前に“連立”を組んで、候補者調整をやることだ。自民党の改憲反対派は自らの反対の意向を秘めて、支持母体の公明党さんに乗るというインチキ保守が多い。自民党100人のうち50人は公明党の支持がなければ当選できないという。言い直せば自民党のうち50人は改憲反対に数えられる。これで自民党は改憲党と言えるのか。
この問題が急転してきたのは、国際情勢の変化が急だからである。ロシアがウクライナにいきなり手を出したのを見れば、習政権が台湾を攻撃する可能性は十分にある。中国は2049年までに米国のGDPと同じになる。軍部は2027年までに中国の軍事力は米国に追いつくと言っている。
国際勢力様変わりの中で、岸田氏は5月のサミットまでは安倍氏のコピー通りだったが、岸田氏が安倍氏の真意までは理解していない。それがバレたからこその不信感だと自覚すべきだ。
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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年7月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。