格付けとトランプ起訴を巡る不思議 アメリカは鈍感になったのか?

トランプ氏が議会占拠事件を理由に3度目の起訴となりました。この起訴は予定通りであり、本人も含め、誰にもサプライズ感はなく、共和党も氏の支持者もほぼスルー状態であります。トランプ氏は「なんでこのタイミングなのか?」と噛みついていますが、その程度です。仮に有罪になれば最長20年の禁固刑が科されます。

トランプ前大統領SNSより

同じ日、こちらはややサプライズ感を持って受け止められたのが三大格付け機関の一つ、フィッチが長期外貨建ての発行体として格付けを最高のAAAから一つ格下げし、AA+としました。さすが、発表を受けて一時的には動揺が走りましたが、各方面から「大した影響はないだろう」という声が続々と出ています。財務長官のイエレン氏は「恣意的で最新のデータに基づいておらず、強く異議を唱える」とコメントを発表しています。

フィッチの格下げは最新のデータというよりも凋落するアメリカの状況を受けての長期的トレンドを映し出したものであり、目先の金融、財務政策に左右されたものではありません。各格付け機関のその判断基準は比較的ブラックボックスですが、個人的にはフィッチの「英断」は正しいと考えています。これは私が先日「黄昏の基軸通貨米ドル」と題して寄稿した内容に重なるものがあります。また複数回の起訴を受けているトランプ氏が更に大統領になろうとしていること、その熱烈なる支持者の盛り上がり、霞む対抗馬、何も言わない共和党などアメリカ社会の不感症具合を表したものなのです。

フィッチはロイター通信とのやり取りで格下げの要因の一つが21年1月6日の議会襲撃の暴動であり、2大政党がより原理的になっていることをその理由に挙げています。

2016年、トランプ氏が大統領と決まった時、アメリカは荒れに荒れました。メディアは分断され、トランプ氏に都合の良いところは贔屓され、嫌われたところは徹底的に罵られました。贔屓されたグループは意気揚々、叩かれた方はくやしさ千万でした。2020年の大統領選でのトランプ氏の敗退は様々な不都合があったでしょう。それは自分が大統領の時に自分に有利に進めた数々の施策が逆回転し、自分にボディブローのように効いてくるからです。事実、3度起訴されたわけです。トランプ氏は24年大統領選で自分が再度トップに立たねばトランプ氏の残りの人生はより厳しいものになる、その自己都合もあり、大統領を目指すのだ、とすればトランプ氏支持者、ひいては共和党支持者は利用されているともいえるでしょう。

しかし、比較的教育レベルの高くない人たちにとって「強いアメリカ」「昔のようなアメリカ」を夢見る気持ちもわかります。移民層も高度なスキルを持った人とヒスパニックなどの南からの流れ込み組で分断します。40年以上もアメリカを身近に見続けた筆者として「メルトポットのアメリカが生み出すアメリカンスピリット」がぼやけてしまった、そうとしか思えないのです。その理由は深いでしょう。ベトナム戦争もアフガンでも勝てず、イラクも怪しい結果でした。オバマ氏は「世界の警官」を止め、中国と仲良くしたあたりからアメリカはさまよいます。ハリウッド映画はかつての大ヒット作の続編ばかりで新しいものを追うチカラはありません。

フィッチの格付けはそんなアメリカを見たのだと思っています。そして3度目の起訴があっても格付けが下がっても「大した影響はない」、これが今日のメディアの主たるトーンです。これを鈍感と言わずしてなんというのでしょうか?

格付けが下がると通常はドルが売られます。が、AAAを維持している他の国はドイツなど欧州の一部とシンガポール、オーストラリアぐらいでそちらに資金がシフトするわけではないのです。規模と絶対的安定感は「やっぱりアメリカだよね」で結局1日か2日、株価にちょっと影響があるだけで翌週には忘れ去られる話になるのでしょう。

ちなみに日本の長期国債の格付けは酷いものです。S&PがA+(安定)、フィッチがA(ネガティブ) ムーディーズがA1(安定的)で世界の中では中堅国並みです。それでも国債の利率はゼロ近辺に貼り付かせるってこれぞイエレンさんの言う恣意的なものではないでしょうかね?つまり、格付けが何だろうが、資金が集まるのは先進国で安定していそうな国ということなのでしょう。

世の中は本当に複雑になったものです。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年8月3日の記事より転載させていただきました。