洋上風力の第2ラウンド入札は白紙に戻して仕切り直せ

池田 信夫

秋本真利議員が東京地検特捜部の強制捜査を受けたのは、洋上風力疑獄の始まりにすぎない。捜査が今後どこまで進展するかは、今の段階ではわからないが、彼が逮捕されるのは時間の問題である。

秋本議員の国会質問の1ヶ月後に入札が延期された

渡された現金は合計3000万円。秋本議員は受託収賄罪で起訴される可能性が高い。経緯を時系列で整理しておこう。

  • 2019年4月:再エネ海域利用法が制定され、洋上風力の開発が始まる
  • 2020年11月:秋田県沖・千葉県沖など3ヶ所の入札(第1ラウンド)の公募を開始
  • 2021年12月24日:第1ラウンド入札をすべて三菱商事連合が落札
  • 12月28日:第2ラウンドの公募開始(〆切は22年6月10日)
  • 2月17日:秋本議員が国会質問で入札の審査基準の変更を萩生田経産相に要求
  • 2月22日:日本風力発電協会が審査基準の変更を求める提言書を経産省に提出
  • 3月18日:政府は入札〆切を延期
  • 5月22日:政府が基準変更案を提示
  • 7月14日:パブリックコメント募集
  • 10月27日:新入札基準の公表
  • 10月28日:秋本議員が日本風力開発から1000万円受け取る
  • 12月28日:第2ラウンド入札の公募を再度開始
  • 23年6月30日:入札〆切
  • 8月4日:秋本議員の事務所などに家宅捜索

第1ラウンドで三菱商事グループが、最低価格11.99円/kWhと他社に5円以上の大差をつけ、3海域すべてで落札した。これは日本風力開発やレノバなどの業者に衝撃を与え、激しいロビー活動が展開された。

入札基準の見直しを主張した小泉進次郎氏

2022年2月3日に開催された自民党の総合エネルギー戦略調査会で、再エネ議連の会長代理である小泉進次郎氏は、洋上風力の入札基準に欠陥があると決めつけた。

風力発電がカーボンニュートラルの成否を決める。先ほど河野さん、秋本さんから話が出たように、今回、三菱商事が3件総取りとなったが、運転開始は早くて2028年だ。他の事業者はそれより早い運転開始を掲げて応札したのに勝てなかった

首相官邸ホームページ

小泉氏が業者から金をもらったのかどうかは現時点では不明だが、この主張は日本風力開発やレノバとまったく同じである。このあと秋本議員が国会で基準変更を要求し、その後わずか1ヶ月で入札が延期されたのだ。

第2ラウンド入札は「官製談合」

問題は、まず秋本議員の受託収賄罪が成立するかどうかである。渡された3000万円のうち1000万円は、昨年10月28日に議員会館の秋本事務所で日本風力開発の塚脇社長から現金で手渡されており、これは基準変更の成功報酬とみてよい。常識的に考えて、1000万円もの大金を現金で渡すことは、犯罪か脱税以外には考えられない。

その趣旨について、日本風力開発側は「共同で管理している競走馬組合への出資金」と言っているが、この組合「パープルパッチレーシング」は秋本議員が1人で管理しており、現物贈与による贈賄と考えられる。受託収賄罪は請託を受けて現金を受領すれば足り、秋本議員の工作が成功したかどうかは無関係だ。

本質的な問題は、入札の審査基準である。小泉氏のいう欠陥とは、三菱商事の運転開始が2028年9月で他の業者より遅いということだが、洋上風力の工事は環境アセスメントを含めると、どんなに早くても6年はかかる。

申請書で早い運転開始時期を出すのは簡単だが、実際に早く完成するかどうかはわからない。今回の入札延期で1年以上、工期が遅れるのだから、これは言いがかりである。他の業者が巻き返した原因は、三菱商事の出した価格が安すぎるということだった。

第2ラウンドの基準は、全体で240点のうち価格点が120点というのは第1ラウンドと変わらないが、業者の出した価格が最高評価点価格以下の場合は一律120点と評価する。この最高評価点価格は未定だが、これを20円/kWhと決めれば、11.99円を出した業者も20円を出した業者も同じ120点となるので、すべての業者が20円で応札するだろう。

これは競争入札とはいえない。つまり昨年の入札基準変更は、価格競争で勝てない他の業者を有利にする官製談合なのだ。

「競売妨害」に当たるかどうかは微妙

これについて西村経産相は「見直しのプロセスは、外部有識者を含む経産省、国交省の審議会で議論し、パブリックコメントを経て決定した」とコメントした。つまりこの評価基準の変更は役人の裁量ではなく、政府の審議会で客観的に決めたというのだ。

だとすると問題はさらに深刻である。2021年末に公示され、22年6月10日に締め切る予定だった入札をドタキャンし、価格競争をなくす基準変更を役所が公式にやったのは前例がない。入札には談合などの違法行為が起こりやすいので、事後的に変更することはありえない。

この介入が競売妨害(刑法96条の6)に当たるというのが検察の当初の見立てだったが、立件のハードルはかなり高い。通常の競売妨害は、特定の業者が他の業者を排除するものだが、今回は役所が3月18日に基準変更を公表し、その4日後に審議会で事後承認されている。

「官製」であることは確かだが、それを犯罪として起訴することはむずかしい。このため今回は秋本議員の受託収賄だけで「トカゲのしっぽ切り」に終わる可能性もあるが、再エネ賦課金40兆円をねらった詐欺事件は、三浦瑠麗氏の夫を初め、枚挙に暇がない。

第2ラウンド入札はキャンセルして公募しなおせ

今回の事件は氷山の一角である。再エネ補助金は制度設計がずさんで、役所の裁量が大きい。今回は入札という裁量の余地の少ない方法だったため、再エネ利権を求める業者が政治家を使って巻き返したのだ。

三菱商事グループの落札価格(12~17円/kWh)はダンピングではない。ヨーロッパでは8~9円が相場であり、エネ庁が設定した29円という最高価格が高すぎたのだ。批判を受けて最高評価点価格を10円以下にするという話もあるが、それでは第1ラウンドと変わらない。

業者の汚い金と政治家の圧力で入札基準を事後的に変更するなど、法治国家にあってはならないことだ。これを放置すると、今後30年で総額15兆円ともいわれる洋上風力に、税金と電気料金が浪費される。1年ぐらいの遅れは大した問題ではない。

入札を白紙に戻し、第1ラウンドと同じルールで改めて公募すべきだ。その際、政治家に金を渡した日本風力開発やレノバなどの業者は、入札から除外するのが当然だ。