超過死亡の原因とりわけワクチン接種の関与について論争が続いている。国会でも幾度となく、超過死亡の原因としてワクチンの関与について質問されているが、最後まで、佐原康之健康局長は「感染研のデータによると、超過死亡はワクチン接種が始まる前から見られており、時系列から考えてワクチン接種との因果関係は考え難い」ことを理由にワクチンの関与を否定した。
この答弁に疑問があることは、筆者もアゴラで触れている。
超過死亡が、ここまで大きな問題となり、その原因が取り沙汰されているなかで、舵取りを誤れば、感染研どころか厚労省にとっても致命傷になりかねない。
佐原氏は7月に健康局長の任を解かれたことでほっとしているかもしれない。佐原氏に代わって健康局長には大坪寛子前官房審議官が就任した。
感染研・厚労省も幕引きを図っているように見える。一部の自治体からの死亡数をもとに超過死亡を迅速把握し、速報を始めたのもその一貫と考えられる。速報では、これまでの超過死亡が一変して過小死亡となっているが、そのカラクリについてはアゴラでも触れた。
感染研の発表する超過死亡や過小死亡は、観測死亡数と予測死亡数との兼ね合いで判断される。予測死亡数の上限値が高ければ、超過死亡と判定される値も過小死亡にもなりうる。
実例を示す。感染研のダッシュボードによれば、コロナワクチン接種を開始した2021年2月以降超過死亡が続いていたが、2023年4月30日の週は、ワクチン接種開始後初めて過小死亡となった(図1)。予測死亡数の閾値下限が27,166人に対して観測死亡数は27,160人であったことから過小死亡と判定された。
ダッシュボードに示されたコロナ流行前(2017年〜2019年)と流行後(2020年〜2023年)の同じ時期における観測死亡数、予測死亡数、予測死亡数の上限値、下限値を示す(表1)。
2020年、2021年の予測上限値は26,994人、26,838人であったが、2023年の予測上限値は30,895人と大幅に上昇し、予測下限値も27,166人に上昇した。その結果、2023年の観測死亡数である27,160人は、2020年、2021年であれば超過死亡と判定されるところが、過小死亡と判定されることになった。大手メディアも、超過死亡が見られなくなったことを大きく報道している。
それでは、なぜ、2023年の予測死亡数は大幅に増加したのであろうか。感染研の超過死亡の計算方法は、過去5年間のデータをもとに予測されている。2022年の超過死亡数が非常に多かったので、2022年のデータを加えて算定した2023年の予測死亡数が増加したと考えられる。
超過死亡は、もともと感染症が流行していない場合と比較して、どれだけ死亡数が増加したかを把握することが目的で生み出された。ヨーロッパでは、コロナが流行する前の2016年から2019年の平均死亡数との差でもって超過死亡を判定している。この方法で計算すると、過小死亡とされた2023年4月30日の週でも9.1%の超過死亡と算定される。
この2年間日本では、ワクチン接種の開始に続いて、コロナが流行し、その結果、コロナによる死亡数の増加、超過死亡が生じている。超過死亡にはコロナ死も含まれるがが、毎回、コロナ死だけでは説明つかない死亡数の増加が見られ、超過死亡数を押し上げている(図2)。
今回も、5月8日の6回目ワクチン接種開始を契機に、コロナ感染者数が激増している。7月下旬からは、1日あたりの感染者数は10万人を超え、BA1、BA2の流行による第6波のピークを超えている。第6波が流行した2022年1月〜3月の超過死亡の総数は49,600人であったが、第6波に匹敵する感染者数が見られる第9波が過小死亡で済むとは思えない。
超過死亡を算定するには、厚労省が発表する人口動態調査の発表を待たなければならないが、2023年5月の死亡数の速報値は122,193人であった。ヨーロッパの方法で計算すると、5月の超過死亡は、15,964人(+6.7%)となる。5月の新規感染者数の推定値が、48万人であるのに対して、6月、7月の感染者数の推定値は、84万人、250万人に増加しているので超過死亡数も増加していると予想される。
今後、超過死亡が生じるとしたら、6回目ワクチン接種の開始が第9波の引き金となり、コロナ死の増加、超過死亡が生じたと考えられる。
世界で唯一、6回目ワクチン接種を進めている日本で、ワクチン接種を契機に超過死亡が生じたとしたら、遺族にどのように説明するのだろうか。筆者の懸念が杞憂に終わることを願わざるを得ない。