XBB対応ワクチンはどこまで期待できるのか?

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9月20日から始まるコロナワクチンの接種に、XBB対応1価ワクチンを採用することが発表された。XBB対応ワクチンについては、ファイザーとモデルナがすでに承認を申請済みである。両社から発表されたデータをもとに、使用製剤をオミクロン対応2価ワクチンからXBB対応1価ワクチンに変更することで、期待される効果について考えて見たい。

ファイザーからのデータは、マウスにおける非臨床試験のみで、ヒトを対象にした臨床試験は、発表されていない。マウスに武漢株対応ワクチンを2回接種後、1)オミクロン.BA4/5対応2価ワクチンと2)XBB.1.5対応1価ワクチンを接種し、各変異株に対する中和抗体価を比較している(図1)。

図1 3種類のワクチン接種後に産生される中和抗体価の比較
82nd meeting of VRBAC, June 15,2023

XBB.1.5に対する中和抗体価は、現在接種しているオミクロン対応ワクチンでは444倍であったが、XBB対応ワクチンでは1,800倍と4倍に増加した。XBB.1.16、XBB.2.3に対する中和抗体価も同様に5倍に増加した。

しかし、XBB対応ワクチンを接種したのにもかかわらず、得られた抗体価は、武漢株、BA.4/5株に対して得られた中和抗体価のわずか、1/55、1/23に過ぎない。抗原原罪の結果と考えられる。

モデルナからは、ヒトを対象にXBB.1.5対応1価ワクチンを接種した場合の中和抗体産生能が報告された(図2)。3回目の追加接種として、つまり、ワクチン接種としては5回目接種をした15日後の中和抗体価である。コロナの感染歴がない10人と、感染歴のある10人を比較しているが、接種後の抗体価は両群間で差は見られない。

接種前と比較して、接種後は、感染歴がない場合は14倍、感染歴がある場合は8倍に増加し、1,200倍前後の抗体価が得られている。XBB.1.5対応にワクチンであるが、XBB.1.16、XBB.2.3.2に対しても同等の中和抗体価が得られている。

図2 XBB.1.5対応ワクチン接種後の各XBB系統変異株に対する中和抗体価
82nd meeting of VRBAC, June 15,2023

現在の流行株はXBB系統変異株であるが、6回目接種に使用されているのはオミクロン対応の型落ちワクチンである。わが国では、オミクロン対応2価ワクチンを2,000万回以上接種したにもかかわらず、第9波を防ぐことはできなかった。流行株に対応したワクチンに変えることで、次に予想されるコロナの流行を防ぐことはできるだろうか。

昨年オミクロン対応2価ワクチンを導入した経緯は、現在の状況と大変よく似ている。昨年の7月からBA.5による第7波が流行したことから、BA.5オミクロン株対応2価ワクチンが承認され、10月中旬から接種が開始された。オミクロン対応2価ワクチンは、従来の武漢株対応ワクチンと比較して、BA.5に対する中和抗体価の産生能が高いことを理由に、採用された(図3)。

図3 オミクロン対応2価ワクチンによる中和抗体産生能
78th meeting of VRBAC, Jan 26,2023

接種開始から2023年1月末までに、4回目接種として2,000万回、5回目接種として2,500万回を超える接種が行われたにもかかわらず、この間、日本は第8波に突入し、1,000万人を超える感染者が生じた(図4)。ほとんどが、BA.5による感染である。少なくとも、オミクロン対応2価ワクチンの導入がコロナの感染爆発を防いだとは思えない。

図4 第8波におけるコロナ感染者数とワクチン接種回数
筆者作成

この時期、日本は世界でも最大の感染者数を記録した。ワクチンの追加接種を行っていない、米国、英国、イスラエルでは、この時期、コロナの流行は見られていない(図5)。

図5 2022年10月〜2023年1月における人口100万人あたりの新規感染者数
Our World in Data

昨秋の経験は、たとえ、流行株に対応したワクチンを選択しても、流行は防ぐことができないことを示している。筆者が、これまで、幾度か触れているように、ワクチンを打てば打つほど感染しやすくなることを示す実例である。

ワクチンを打つほどコロナに罹りやすくなる直接的な証拠
2023年になっても、コロナの流行が収束する気配は見えない。図1に示すように、わが国における100人あたりのコロナワクチンの追加接種回数は、世界でもダントツである。 多くの国では、昨年の初めから、ワクチンの接種回数は頭打ちであ...

現在、第9波の真っ只中であるが、これまでの流行持続期間を調べると3〜4ヶ月である。第9波の始まりを5月中旬とすると、第9波は遅くとも9月中旬には終了すると考えられる。9月下旬からXBB対応ワクチンの接種が開始されて、今秋から冬にかけて第10波が襲来すると、いよいよ、「ワクチンを打てば打つほど新規感染が増える」ことが裏付けられる。

世界では、EG.5.1変異株が出現し、米国ではXBBに置き換わって流行の主流である。日本国内でも、EG.5.1は7月初旬にすでにXBB.1.16に次いで高頻度に検出されており、XBB対応ワクチンの接種が始まる今秋には、流行株の主流になると予想される。XBB対応ワクチンが、EG.5.1変異株に対してどの程度の中和抗体を産生するかはまだデータは発表されていない。

厚労省は7月28日に、ファイザー社から2,000万回分、モデルナ社から500万回分のXBB対応ワクチンを購入することを発表したが、購入価格は明らかにされていない。米国における、武漢株対応コロナワクチンの価格は、ファイザーが19.5ドル、モデルナが18ドルであった。ところが、ワクチンの需要が低迷したことから、両社はワクチンの新価格を110〜120ドルに値上げすることを提案している。

EU諸国は共同でワクチンを調達する契約をファイザーと締結し、2023年は、1回あたり19.5ユーロで、4億5,000万回分の購入が予定されている。しかし、ヨーロッパ諸国では、ほとんど追加接種が進んでいないことから供給過剰となっている。ファイザーは、ワクチンの供給量を削減することの引き換えに価格を上げることを提案している。

このような状況から、日本へのXBB対応ワクチンの納入価格も大幅に値上げされたと想像される。先に述べたように、XBBワクチン接種を開始する頃に、流行株は、EG.5.1.変異株に置き換わっていれば、またも、型落ちワクチンを打つことになる。世界で、ワクチンの追加接種を推進している国が日本のみである現状を直視すべきである。