それでも松川るい議員への期待は変わらない

7月末に実施された自民党女性局のフランス研修が問題視されてから2週間が経過した。この間200を軽く超える“報道”がなされ、繰り返し論難されてきた。「研修ではなく旅行と見紛う写真」に端を発した轟々たる非難に沸騰する社会は、一方で洋上風力発電を巡る汚職事件が発覚してもあまり関心を示さないなど、物事の判断基準に難があることも自明だがその問題意識は一旦脇に置く。

今回は、松川るい議員が直面する試練に主題を絞る。松川議員の能力と個性は日本にとって貴重であるため、一連のリアクションを一過性の社会現象としてやり過ごすのではなく、真に意味ある教訓を掬い上げて氏の一層の成長につなげて頂きたい。

実は今回のような事態は、タイミングと規模を除けば、いつか起きるだろうことを筆者はある程度予見していた。かつて「老人は出歩かない」という独り言を切り取られ蓮舫議員にいたぶられた舌禍をはじめ、兆候があったからである。

日本社会においては、社会的な摩擦経験の少ない若手有望人材が一度は受ける特有の通過儀礼がある。「出る杭は打たれる」という残念な“格言”が示す社会的な側面だが、今回の騒動はまさにその一種である。多くは潰されて行くが、安倍元総理や小泉純一郎元総理などのように、逆にその後の飛躍に転化して行く人物も少なくないなど、人物の器の試金石とも言える。

今回の一件は今後、松川るいという政治家が小さくまとまるか、それとも日本を支えるリーダーの一員に化けるのか、その分岐点となるだろう。筆者は当然、守りに入らず一段と逞しい大人物に成長し飛躍を実現して頂きたいと願うし、そうなれる人物だと考えている。

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ulalaさんのアドバイス

フランス在住日本人の著述家ulalaさんが、ラジオ番組『文化放送 おはよう寺ちゃん』(8月14日5:00放送)において、自民党女性局のフランス研修に関してコメントを発信した。

これまでの200を超える報道は、総合的な現象としては教訓に富んだ事例だが、一つ一つは皮相的な同趣旨の指摘の繰り返しに過ぎず、あまり有意義な声ではなかった。しかしこのulalaさんだけは違った。

彼女はフランス在住者で、IT技術者として男性優位社会フランスで男性に伍して働く一方、フランス人の方と家庭も築き、仕事と子育てを両立させている著述家である。そのためフランスが現在直面している、最新の深刻な社会問題を知り尽くした貴重な日本人であり、その知見を基盤として、的確に今回の問題の核心を突くコメントを発信していた。

この傾聴に値する指摘について、以下要点を列挙する。(原文は添付の文字起こしデータをご参照。)

仏国在住者ulalaさんの価値ある指摘「自民女性局がフランスで見るべきだったもの」|田村和広
フランス在住の著述家ulalaさんが、ラジオ番組『文化放送 おはよう寺ちゃん』(8月14日5:00放送)において、自民党女性局のフランス研修に関してコメントを発信しました。 ulala(フランス在住 著述家) 【公式】おはよう寺ちゃん 8月14日(月) - YouTube 当該研修が問題視されてからここまで2週間、2...

テーマ:「自民党女性局がフランスに出向いたフランス少子化対策の現状」

■ フランスは少子化対策に成功している国なのか

MC寺ちゃん:日本ではよく「フランスは少子化対策・子育て対策に成功した国です」と言われる。またその理由として、以下のように言われる。

  1. 「子育て支援に対する公的支出が日本よりも多い」
  2. 「結婚せずに子供を作れる仕組みが整っていて婚外子が多くそれが出生率にプラス」
  3. 「子供が多い世帯ほど所得税が軽くなる『N分N乗方式』」

しかし実際には出生率が下がってきているのではないか?その背景についてulalaさんは何か感じることがあるか?”

ulalaさん:(出生率は)低下している。過去30年間のフランスの出生率を見ると、90年代から2000年代にかけて回復したあとに、低下し続けている。今出生率は1.8まで下がっている。

かつてフランスの出生率が上がったのはベビーブームに乗れたからであり、ブームに上手く乗らせるのに補助金とかは良かったかもしれないが、補助金で盛り上がってきたわけではなかった。今出生率が落ちてきているということは「補助金」は持続性がある対策ではないということを表す。今同じことを日本がしようと思っても私は意味がないと思う。

■ 少子化対策は「結婚に拘らず、まずはカップルになれる体制を整えること」

MC:日本でも「まずは結婚を促進していくことなんだと。経済的な不安感でそれが萎縮…」

ulala:フランス人同士のカップルの出生率が凄く減っている。「二人目を育てる余裕がないから二人目はいらない」というカップルがいる。手当など功を奏していない。

子沢山の家というのは裕福な家だったり、移民の家で奥さんが家庭にいて子供を育てるという環境が整っていたりする。しかし普通の堅実なフランス人カップルでそんなに子沢山の人は最近あまりいない。ただ離婚すると「前の奥さんとの子が二人いて、今の奥さんとの子が二人いる」という事例はあるが…。

カップルになると助け合えるので経済的な負担も減る。結婚に拘らずまずはカップルになることを促進する。それでプラス子供も生まれてくると思いますから、そういうのがもっと容易にできる体制を作って行くことが大切と思う。

今フランスは、少子化よりも恵まれない郊外問題が深刻

ulala:現在のフランスは「少子化対策」よりも「既にいる人材を働けるように教育すること」に熱心だと思う。

「恵まれない郊外に住んでいる若者」は、教育もちゃんと受けていなくて失業率が高い。そこで学校を退学になったとしても18歳までは何らかの教育を受けることを義務付けることにしたり、亡命を希望する外国人の中で、レストランやホテル業で働くことを希望する方々には滞在許可証を取り易くしようとしていたりする。

今フランスがやっているこれらの取り組みは、日本がやろうとしていることと重なる部分がある。

どうすれば、研修を実りあるものにできたか

MC:自民党の研修、ulalaさんからみてどうすれば実りあるものになって人々が受け入れたと思うか?

ulala:フランス研修を有意義なものにするためには、もっと違う発想で違うところを見てくるべきだったと思う。

例えば、

  1. 「恵まれない郊外」を実際に見ること
  2. フランスは移民問題に関してもの凄い「先進国」だからその現実をみること
  3. 「外国人との共生にはどんな弊害や問題点があるのか」を見ること
  4. 「フランスの格差や分断がいかに国をダメにしているのか」を確認すること

など。

『挑戦する力』(松川るい著)からフランス研修の意味を読み解く

一方我々一般国民の側の一部は、自民党女性局がなぜフランス研修に行ったのか、その意図について十分理解していないままに批判して気持ちよくなっているように見える。またこれは主観的な感触に過ぎないが、(ulalaさんを除き)誰も彼もいわゆる「後知恵」(「事後諸葛亮」)での論評をしているに過ぎない。

「想像力の欠如」「投稿時に反応が読めないのは政治家としてどうなのか」などと言うが、それほど皆、SNSでの発信について名人なのだろうか。論難を先導している“言論人”や“ジャーナリスト”と呼ばれる職業人でさえ、失言やフライング投稿にとどまらず、SNSや記事での情報発信に関して名誉毀損や侮辱が裁判で確定している方々も少なくない。つまりプロでさえ過ちを継続的に犯しているのである。況や一般国民をや。

また既に社会評価の大勢が決しているから非難する側にたってなじっているが、本当にそれが賢者・仁者・大人の姿勢だろうか?

一般国民のうち舌鋒鋭く非難している人々は、誰かが言った根拠で誰か言った論難を繰り返して日本の役に経った気分を味わっているだけではないのか?

メディアの論者も読者や視聴者が聞きたい言葉をコメンテーターに繰り返し語らせているのではないのか?

ところで松川るい議員には、2022年6月に発行された著書『挑戦する力』がある。今から1年以上前に、参議院議員選挙直前というタイミングで執筆されたそれには、その来歴や政治家としての考え方が率直に語られている。

通り一遍の批判を表明した方々のうち、これを読み考え方を理解していた人は殆どいなかったようである。なぜなら、もし読んでいたら今回の研修の意図についてもう一段深い理解を基盤として他とは違う考察と批判ができたと思うからである。

そこで、当該書籍から、「子育て・少子化対策」、「義務教育の低年齢化」・「子ども帯同という女性議員としての働き方」に関連がありそうな記述を列挙する。虚心坦懐に彼女を理解しようという意志と能力を持つ読者が自分で考える材料となれば幸いである。

記述の選別自体で既に筆者の主観の混入は免れないが、読者自身の考察を形成していただきたいので、とりたてて筆者の論評や見立てを付加することはしない。また読みやすさのために最低限度小見出し(太字)だけは付加したが、内容は読者諸賢にご判断頂きたい。(以下同書より引用。太字は引用者)

「女性参画推進室初代室長就任と安倍晋三総理」

二〇一四年四月、外務省に女性参画推進室が新設され、私(松川氏)は初代室長に就任した。女性参画推進室の設置の淵源は二〇一三年九月の安倍晋三総理の国連総会における一般討論演説にさかのぼる。安倍総理は一般討論演説で、「女性が輝く社会をつくる」という大スピーチ(略)。

「昭和モデルの活動スタイル」

国会議員になるときに、「私のような、“絶賛子育て中”の女性でもできるような国会議員の活動スタイルを見つける!そうすれば、より多くの女性が国会議員になれるようになるから」と豪語したのだが、実際は難しかった。小学生以下の子育てをしている女性には、バックアップ体制がよほどないと国会議員を続けるのは難しい
「議員の妻」は、ほぼ一つの職業だ。だが、「議員の夫」が地元周りをしているというのは聞いたことがない。私のような共働きで子育て中の女性は、どうするのが正解なのだろうか。

■ 「女性が少ない日本の政治」

日本は、政治の場に女性が少なすぎる。(略)自民党大阪府連では、女性の政治への関心を高めるプロジェクト、また、政治家になりたい女性を発掘し、地方議員として出馬まで養成していくプロジェクト「watashiba」(私場、渡し場)を開始したところである。

■ 「夫婦間の家事・育児の衡平な分担の実現」

日本では女性が家事・育児に使う時間は男性の六倍。(略)フランスは二・三倍だが家事・育児総時間自体が短い。これで外に仕事に出て「活躍」しようと言われても、男性と同様の仕事ができないのは当然だ。さらに、二人目を産もうという気もなくなる。

■ 幼児教育の「義務教育」化とフランス

六歳までの幼児教育がその子の将来の成功を大きく左右することは、様々な国際的研究で明らかになっている。

フランスはもともと九七%の子どもたちが保育園に通っていた。日本と同じだ。それでも、二〇一九年から三歳の幼児教育を義務化している。フランス語や数的概念など教育的な内容をしっかり教えるカリキュラムになっているようだ。まだ、施行してから三年弱なのでどの程度の効果が出ているのかはわからないが、ぜひ研究させてもらいたいと思っている。

■ 「子育て中の女性首相」

二〇二二年五月十日、フィンランドのサンナ・マリン首相が初来日。三十六歳の女性首相であり、四歳の娘さんがいて子育て中でもある。(略)マリン首相はこう述べていた。「フィンランドも出生率が最近は下がり気味だったが、私が首相になってから出生率はアップしている。」またマリン首相は出生率が回復したもうひとつの理由を「私のような若い女性が実際に子育てをしながら首相をしている姿を見せていることにあると思う」と語っていた。

むすび

今回の騒動では、SNSにおける情報発信の仕方、つまり政治家としての自己演出力の巧拙を論じられることが多かった。しかしそれは「見せ方」という皮相的な問題であり、実体としての政治家本人の真価を論じてはいない。

確かに民主主義においては、政治家にとって力の源泉としての国民からの支持は大切なテーマである。しかし国民の側自身が、実体に着目せずに見せ方だけを論難することは、時に「自分をどう騙してくれるのか」と迫っていることにほかならず、何割の人がその滑稽さに気がついているのだろうか。

一例をあげるなら、「ベクレている」だの「住めなくなる」だのと福島周辺を誹謗しておきながら、その反省も謝罪もなく「被災地で作業着を身にまとい泥濘除去作業」のきれいな写真をアップする俳優出身議員のほうが、国益のために働いている議員よりも評価されるなどという現状には、少なくない問題がある。それはまた、事実に基づき論考を発信する我々のような人間の機能不全でもあり、役割を担えていない自覚のある筆者は心から反省している。

今回の総括はまだ先になるが、現段階で価値ある指摘をしてくれたulalaさんに敬意を表す。また彼女自身の記事が近々アップされるとの予告を旧ツイッターで拝見したのでそれも楽しみにしている。

最後に、松川るい議員が自著の中で表明している信念を掲示し、我々の側の松川議員に関する理解の深化をはかりつつ、氏のさらなる飛躍を祈念したい。

■ 「外交官時代から変わらぬ政治家松川るいの信念」

「日本の国益のために、そして日本国民のために、自分の持てる情熱や能力の限りを尽くしたい」これは、外交官になったときからの、そして政治家としても変わらぬ一環した自分の信念である。