米IT企業が続々フルリモート勤務をやめる理由

黒坂岳央です。

英文ビジネス誌フォーチュンに驚きの記事が掲載された。コロナ禍を機に、世界中にリモートワークの火付け役となったZOOM社がフルリモート勤務をやめると発表したのである。オフィスから50マイル以内に住む従業員に対し、少なくとも週に2日は出社して仕事をするよう伝えたという。出張も再開するITテック企業も出てきた。

また、Google社もフルリモート勤務を原則禁止、週3回は出社を要請しているし、テスラ、Netflix、ゴールドマン・サックス、バンク・オブ・アメリカをはじめ世界的リーディングカンパニーもフルリモート勤務に否定的な姿勢を見せた。

コロナ禍では「リモートワークに否定的な日本は遅れている。積極推進し、社員の健康を守った米国はやはり先進的で素晴らしい」といった意見を多くあったが、コロナ禍が終わった今その米国でリモートワークに対する考え方を改める人が増えてきている。

fizkes/iStock

フルリモートワークの限界

留意点として、上述の企業が廃止するのは”フル”リモートワークであり、週に2-3日の出社を伴う”ハイブリッド”リモートワークなのだ。しばらくの期間を経て、フルリモートワークの限界が見えてきたのかもしれない。

以前にリモートワークに向いていない人の特徴という記事で書いたが、リモートワークというスタイルは、対面コミュニケーションに比べて人によって得手不得手が大きく出てしまう。オフィスで周囲に人がいて話しかけられるたびに集中力がぶつ切りされる弊害を強く感じる人がいる一方、テキストコミュニケーションや労働中のメリハリがつかず、労働生産性を大きく落とす人もいる。

自宅で仕事をするには、高度な自己管理能力が問われるため、周囲の目がなく労働環境に特化したオフィスでなくても毎日仕事にコミットできる人は少数派と断言しないまでも、全員でないことは明らかである。特に新人育成についていえば、ほとんどの場合はフルリモートに合理性を見出すことは難しいだろう。

フルリモートでは労働生産性が高まる人、低下する人にわかれてしまう。労働生産性を感覚値だけでなくデータドリブンでも分析し、トータルで俯瞰すると全体の効率性を下げるという結論に至ったものと推測することが可能だ(実際、Google社はパフォーマンスの低下データを公表している)。

個人プレーをするフリーランサーや一人社長でリモートワークが得意ならいくらでも続けるべきだが、企業はチームワークで結果を出すワークスタイルとなるため、全体的に考えた結果として出社回帰という結論に至ったのだ。

出社嫌いのアメリカ人

だが、米国では一部の労働者側からはフルリモート廃止は否定的に映っているようである。つまり、フルリモート勤務を廃止したい経営層と出社に否定的な従業員とで確執があるようなのだ。

それを裏打ちする話としてイーロン・マスク氏は昨年、従業員に週40時間の出社をするか、もしくは辞職するを求めるメールを送信したと波紋を呼んだ。

また、米ジョーンズ・ラング・ラサール社によると、オフィス出社率は世界の主要都市と比較すると突出して低いことが明らかになっている。同社のデータを「アメリカ人は出社嫌い」と結論づける人もいる。もしかしたらフルリモート勤務廃止により、それなりの数の退職者が出てしまう可能性がある。

今後フルリモート廃止企業、継続企業との間で労働力の往来とパフォーマンスに注目が集まるだろう。

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ビジネスジャーナリスト
シカゴの大学へ留学し会計学を学ぶ。大学卒業後、ブルームバーグLP、セブン&アイ、コカ・コーラボトラーズジャパン勤務を経て独立。フルーツギフトのビジネスに乗り出し、「高級フルーツギフト水菓子 肥後庵」を運営。経営者や医師などエグゼクティブの顧客にも利用されている。本業の傍ら、ビジネスジャーナリストとしても情報発信中。