WeWorkは一時の流行だったのか?

ソフトバンクグループが主要株主であるWeWorkはシェアオフィス業界のリーダーでもあり、ガラス張りの個人スペースは、時代の流れに乗ったトレンドビジネスであったと思います。

紆余曲折しながらも上場した21年10月には瞬間で15ドル弱をつけるもその後、ほぼ一直線で下げ続け、今、同社の株価は12セント強程度となり、高値から1/100を下回る状況となっています。

株価が1ドル以下を続けるとNY証券取引所の上場規定に引っかかるため、現在1/40の株式併合の準備を進めています。そうなると一時的に5ドルという数字をつけるはずですが、低株価による併合はろくなことが起きないケースが多く、今秋にも破綻する公算は高いとみています。ソフトバンクグループで同社の85%の株式を持っていますので破綻すれば孫氏は「損氏」になってしまいます。

WeWork(ウィーワーク)公式サイトより

破綻してもWeWorkのシェアオフィスが突然なくなったり、アクセスが出来なくなることはないとは思いますが、事務所ビルの大家が退去を促すので一定期間後の事務所閉鎖は物件ごとに徐々に進んでいくとみています。特に同社は「ない袖は振れない」と正々堂々と賃料を払っていません。

事務所ビル所有者としては実質無償状態のテナントを放置すると既得権のようになるので後々の法定闘争の可能性も含め、プレッシャーをかけ続けなくてはいけないのです。

事務所ビルは入居するテナントが自分の好みに内装を仕立て上げ、退去する時に元に戻すのが原則です。大きな賃貸スペースを借りるWeWorkを即座に追い出してもオフィス契約の条件であるShell状(コンクリートの壁だけの状態)にして事務所を退去するという原則を履行してくれることは全く期待できません。ならば多少でもWeWorkのテナントがいてくれた方が助かる場合もあります。

WeWorkの場合、吹き抜けやら中階段を含めたユニークな設計であり、一般的には転用しにくい間取りなのです。よって大家からすればこれをこのまま残されては困る、と考えるわけです。ましてやオフィスビルは主要都市の空室率が15-17%となる中、追い出すモチベーションが低いこともあります。

さて、シェアオフィスは一時のブームだったのか、といえば潜在的需要はむしろ高いのですが、WeWorkの顧客層は住所だけが欲しい表面的な事業主も多く、定着率も悪かった、ということかと思います。

WeWorkの事務所に行くと絵に描いたような30代前後の若者がノートパソコン一つで仕事をしています。座る場所も毎回違うし、広い共有エリアでは飲み物やポップコーンが無償で配られます(かつてはビールまで無料でした)。「格好いい」これがぴったりくるのです。

しかし、一人でする仕事の規模は知れています。せいぜい生活費に見合う給与が出る程度でしょう。ここがシェアオフィスの見誤った点です。そもそもは一人オフィスではなく、同じ会社の人たちが家から近いWeWorkで働き、オンラインで繋がるという発想を育むべきでした。ですが、実際にはそうならなかったわけです。

私が入居する英国IWGグループのリージャスというシェアオフィスはそういう派手さはほとんどなく、ごく普通の個室がずらりと並ぶタイプです。最近、入居者が若干増えていますが、一つのオフィスに数人入り、作業しているところが多いこと、個室の中は見えないため、会社の書類や貴重品を置いておいても一応大丈夫です。WeWorkとはそのあたりのコンセプトが違ったわけです。

つまり、ファッション感覚での仕事を目指したWeWorkに対してIWGは仕事の環境をきちんと考えた、その違いが出たと思います。

ところで中国の不動産も戦々恐々ですが、北米の事務所用不動産も目も当てられない状況には変わりなく、かろうじて見えないふりをしていますが、こちらも秋にトラブルが再燃する公算はあり得ます。

俯瞰すると、コロナで働き方が変わったのは良いけれど今後、何処でどう働くのか、会社によりバラバラで未だに出社か在宅か、ハイブリッドか、世の中に統一された見解がないことが混迷の理由でしょう。またハイブリッドの場合、月曜日と金曜日は出社しない人が多いというのが当たり前のトレンドになっています。業務は従業員の都合ではないという点を踏まえれば組織をどう支えていくのだろう、という不思議感は経営者の私もいつも疑問に思っている点です。

働き方改革とは言いますが、結局、何をどうしたらよいのか、経営側も従業員側もよくわからないのでしょう。私は古典的な出社主義ですし、私が関与している事業はほぼ出社を貫いています。現場にリモートはない訳で結局我々は普通に会社に行くわけですが、逆に行くな、と言われると落ち着かなくなるのは私も古い昭和のスタイルがこびりついているということなのでしょう。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年8月24日の記事より転載させていただきました。