ウクライナ戦争1年半、転換期は来るのか?

今野敏氏の小説のような話でした。

ワグネルのプリゴジンとその総司令官ウトキンはロシアの秘密警察に動向を探られないよう注意深くプライベートジェットに乗り込み、モスクワから次の目的地、サンクトペテルブルグに飛び立った。機内の窓から見下ろすロシアの広大な森林と美人キャビンアテンダントの配るコーヒーに緊張が緩む。ひと時の空のオアシスは、しかし、轟音と衝撃で機体は一瞬でさく裂し、垂直に墜落した。2人は目を合わせるも言葉を交わすことすらなくこの世から葬られ、粛清された。FSB(ロシア連邦保安局)は任務を完了し、プーチン大統領に直ちに報告された。「Харашоу(ハラショー、ご苦労!)」。プーチンは何事もなかったかのように執務に戻った。

小説であっても事実であってもこの展開は驚きはありません。プーチン氏は自分を守るためならどんな人物でも消すことに何ら抵抗も持っていません。プーチン氏の判断基準が我々西側の平和に暮らす人間とは全く異なるものだということを改めて裏付けました。

「自らに反抗する者は一人もいらない」それがプーチン氏のスタンスです。子供の時から身長が低いことにコンプレックスをもち、体の大きい周りの友人たちとのギャップに苦しんだことが氏の歪んだ性格を作り上げました。柔道をして強くなりたいと思ったことや大統領時代に華麗なアイスホッケープレーヤー振りを披露したり、上半身裸の筋肉質のカラダをしばしばメディアに公開したのも「俺は強い」というナルシスト的な部分を垣間見せていたとも言えます。

プリゴジン氏とプーチン大統領

これは何を意味するか、といえば彼は一人でも闘う、というスタンスです。ここは極めて重要な点です。私が思うのはハリウッド映画仕立ての「このボタンを押せば相手は一瞬で終わりさ」という最終兵器を繰り出す用意がいつでもあることでしょうか?

東部ウクライナの前線では膠着状態の中、多少、ウクライナ軍が押す展開となっているようです。ただ、これから秋にかけてウクライナは雨で地面がぬかるむため、地上戦は非常にやりにくくなります。以前にも書いたように第二次大戦の際、ドイツ軍がソ連を攻めあぐんだ一つは現在のウクライナの地域を進軍するドイツ軍の一軍が秋の雨でぬかるみ、思うように進めなかったことだとされます。今回の戦いでも、双方共に攻防ラインを明白に破るのはたやすくないのかもしれません。

日経の「真相深層」には「プーチン氏、戦略なき戦闘」とありますが、プーチン氏は団体戦、総合力、組織力などそもそも考えていない男です。彼の人生の背景を考えてみれば一目瞭然であり、KGBという組織は極めて個人行動に近い部署であります。ロシア秘密警察を題材にした小説を読むだけでもその異様なスタンスは分かるでしょう。よってロシア軍をどう動かすのか、ということには長けてはいないはずです。

それでも一般社会から見て「無謀」といわれる賭けに出たということは彼なりの一流の戦略が誰にも分らない形で存在しているとみるべきで「戦略なき戦闘」という表層の捉え方では判断を間違えると考えています。

ゼレンスキー氏が恐れるのは仮に東部ウクライナを奪回したとしてもそれで終わることはない点であり、氏はそれを今までに何度も口にしています。それだけゼレンスキー氏はプーチン氏の分析をしているわけで彼がどんな人物で何をしでかすのか、十分把握しているとも言えます。

仮にこの秋、ウクライナ軍が更に押し、ロシアが国境あたりまで後退するようなことになればプーチン氏は別手段を考えると思います。作戦は無限に存在するわけで例えばドニエプル川にかかる主要な橋を全部破壊し、ウクライナ軍の地上部隊の行く手を阻むことも大いにあり得るでしょう。

現状、和平には遠い、という気がします。その間、西側諸国のウクライナ支援にも疲れが出ていることは明白です。今般、オランダ、ノルウェー、デンマークがF16戦闘機を供与すると決めたようですが、操縦の仕方を含め、実戦に使えるのは来年の春以降の話でしょう。ドイツは引き続き、消極的支援に留めています。ウクライナの国家疲弊度は大きく、経済は落ち込み、人口が急減し、出産数も激減です。侵攻前の同国の人口は4380万人、世銀の2030年の予想は3500万人以下となっています。個人的にはそれをはるかに下回る公算が高いとみており、国家維持が厳しい中で終戦は全く見えない状況に未来はあるのでしょうか?

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年8月25日の記事より転載させていただきました。