敵に塩を送るつもりはありません。いや、本当に塩不足になっている狂乱の北京の消費者に塩を送るつもりもありません。ですが、中国経済の足かせとなっている不動産問題について中国ならではの解決方法があるような気がしてきました。
恒大集団は西側諸国の経営原則からすれば今もって存在していることはおかしいのですが、考え方一つ次第では倒産⇒裁判所が介入する再生法に基づく企業再生という思い込みを外してしまえばなんて言うことはないのかもしれません。つまり、再生は可能。そして他に山ほどある不動産開発会社の再生も可能かもしれません。
そのポイントは債権者に債権の大部分を強制的にギブアップさせればよいだけです。
不動産開発事業は他の産業と違う特徴があります。それは持っている不動産という資産の上に構築物を建て、顧客に分譲ないし賃貸することを生業とします。なぜ不動産開発会社が行き詰まるか、といえば基本は自転車操業的要素があるからです。非常に単純なケースを見てみます。
プロジェクト1(P1)を進めるために土地と工事費100億円を工面します。工事が始まったところでプロジェクト2(P2)の土地を取得します。P1は24カ月に完成し、完成すれば150億円が入金になります。その為、P2はその間のつなぎとして新たにプロジェクト総額100億円を調達し、P1完成後まずはP1のローンを返済し、更に残った50億円でP2のローンの一部を返済します。P2の工事が始まったらP3の土地を取得しまた、100億円調達する…という具合なのです。つまり一つのプロジェクトが完成まで4年ぐらいかかる中で時間軸を1年ずつずらしてP1,P2,P3…といった具合に重ね合わせるのがこの業界のやり方なのです。
もう一つ、不動産開発業は決算上の利益を抑えることが可能なのです。例えば分譲ではなく、自社所有の賃借物件の場合、減価償却費が大きくなるため、利益を減らせます。通常、税金対策の一環として減価償却目当てで連続開発を行うこともあります。私が東京で6連続で賃貸物件を開発した時、会計士が唸ったのはそういう理由です。一方、EBITDA(税前、利払い前、償却振り戻し、つまり簡易なキャッシュフロー)は大きくなるのが普通で、端的な話、会社の決算は儲からなくても潤沢なキャッシュフローでローンの元利を払うわけです。
恒大集団の連続技が切れたのは分譲住宅が売切れにならなくなり、コストが上昇したところにあります。自転車操業ですから一つ歯車が狂うと全部狂います。そしてP1からP100ぐらいまで繋がっていると海岸に打ち寄せる波が台風のように荒れ狂うことになるわけです。
ではどうするのか、ですが、基本的に住宅は一般庶民は欲しいのです。ただ、高くて買えないだけなので割安感を出せば売れるに決まっています。安くするにはどうするか、といえば資金を貸している債権者に「泣け」といえばいいわけです。会社の決算は西側標準ですと債権者が泣けば借り手はforgiveness of Debt(債務免除益)といって莫大な利益が恒大集団に計上されるはずです。が、22年末の決算ではそれが見えないのでどういう会計処理をしているのか不明ですが、基本は貸借対照表の左右が膨大に膨らんでいたものを強制的に小さくすれば再建は可能なのです。
繰り返しますが、これは不動産開発事業者が享受できる特徴だと言えます。
恒大集団がアメリカで破産法を適用したのもアメリカの資産整理のためであり、中国本国に所有する不動産は痛むことはないでしょう。また、恒大集団はたぶん、近日中に上場する香港市場での取引を再開します。香港市場は18カ月取引がないと上場停止できるとなっており、現在取引停止から15カ月程度たったところです。同社は香港証券取引所に取引再開の申請とそれを満足させる資料を提出しているようです。
では仮に取引開始になれば株価はどうなるでしょうか?株価は1.65元が最後だったのですが、たぶん、上昇するはずです。理由は貸借対照表は縮小しており、損益計算書上で24年末には利益が出る公算が高いからです。もちろん、キャッシュフローは大きく改善していくはずです。
結局、中国が共産主義である以上、資本家はもっとも守られない立場にあり、一般消費者と取引先を最優先とし、経営者を実質的にさらし首にして中国政府が実質的に経営を牛耳れば力技ですが、こんなことが可能になるわけです。言い換えれば資本家の権利を最も劣後させることで国家の体裁は保てるわけです。もちろん、これに金を出した国内外の人は大損であり、国外の投資家は中国投資を避けるでしょうし、国内投資家は自分の資産をどうにかして海外に持ち出す算段を考えるでしょう。
単純に言ってしまえば日本の企業が倒産⇒再生⇒再上場というプロセスを踏むところを全部すっ飛ばしてずっと上場を維持させるわけです。
一方、中国で不動産業界が回復できそうな気配が出来れば10年スパンの時間がかかりますが、中国の経済安定化につながる公算は無いとは言えない気もします。これは日本でも同じで、90年代後半から2000年代初頭にかけてミニバブル待望論がでて不動産会社は過去の簿価の高い物件が捌けて不動産会社の体力回復につながりました。
景気は波を打ちます。中国には一応14億人の民があり、自律的経済活動をしている前提に立てば以前から指摘するように経済が崩壊しようが歯車が外れようが機能停止することはないのです。政権と14億の民の生存維持は別物だと捉えるべきだと思います。
最後にもう一つ、私が考える超大技をご披露します。中国は住宅を作り過ぎたとされます。当然、需要と供給がバランスしません。そこで政策的に農家も含め、一家庭一戸ずつ住宅を全部、廉価で配ってしまったらよいのです。共産主義なのだからできます。そうすれば不動産問題は即座に解決できます。無茶苦茶のようですが、そもそも無茶苦茶の国ですからこういうのもアリじゃないでしょうか?
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年8月28日の記事より転載させていただきました。