高齢化社会において、長く働ける環境が提供され、しかも、その結果として公的年金を補完する企業年金の給付を受けられ、老後生活を豊かにできることは働く人にとっての大きな魅力だから、企業にとって、企業年金は、人を引き付け、人を引き留めるための有効な福利厚生制度として見直されるべきである。
実は、人を引き留めるだけでなく、人を引き付けるためにも、福利厚生制度などの広義の働く環境が重要な要素になる。例えば、小さな子供のいる人にとって、企業内に保育所があること、ペットのいる人にとって、それを職場に連れてきていいことは、大きな魅力なのである。
その他一般に、多様な働き方に対応し、更には働き方を超えて多様な生き方に対応した弾力的な勤務形態を認め、それを可能にする支援制度を充実させることは、働き方改革の進行とともに、働く人が企業を選ぶ重要な要素になってくる。こうした広義の働く環境として、福利厚生制度は、人を引き付け、人を引き留めるための重要な機能を担うようになるわけだ。
働く環境といえば、福利厚生制度の枠を超える。福利厚生制度以上に、企業が働く人に提供できる環境とは、そこに自己実現の機会があること、優秀な仲間がいること、優良な顧客基盤があること、社会的信用があること、企業名が広く社会に認知されていることなどを含み、それらの総合が人を引き付け、引き留める要素になる。
いずれにしても、給与や賞与は、働き方改革の進行とともに貢献を適正に反映するものになればなるほど、単に当然のものになるだけで、人を引き付け、引き留めるための特別の魅力を失っていく。企業の人事戦略は、働きに報いることから、働く環境の整備へと根本的な転換をとげるわけである。
給与や賞与で働きに適正に報いることは、実は、最低限のことにすぎず、それができたとしても、少しも企業の人材市場における競争力の強化にはならない。人事戦略の鍵は、人を引き付け、人を引き留めることにおける競争力なのである。この点に企業が気付くとき、企業年金をはじめとする福利厚生制度と働く環境の重要な意義が見直されるのである。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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