会長・政治評論家 屋山 太郎
「台湾有事は日本有事」とは安倍元首相が言った言葉だが、軍事に関係する人達は台湾有事が日本有事になることは誰もが昔から認識していたろう。日本人が「台湾」を口に出せなかったのは、中国と台湾の間をこじらせる、米中間にトラブルを生じさせると慮っていたからだ。
そもそも台湾は、日清戦争で日本が勝利したことにより、下関条約で清国から割譲された島である。当時、清国は台湾を「化外の地」と言い、そこに住む人々を「化外の民」と言った。そこに日本政府の統治が始まり、第二次世界大戦で日本がポツダム宣言を受入れ、降伏するまでの約50年間、歴史を共有してきたのである。その間、れっきとした日本の領土であった。
1945年10月、台湾の施政権が中華民国(蒋介石政権)に移った。中国は今、台湾の領有を核心的利益の核心と言って憚らず、台湾の武力統一を否定しないが、中国(中華人民共和国)が、台湾を統治したことは一日たりともない。
2021年1月に世界価値観調査が79ヵ国に対して実施された。「国のために戦いますか」との問いに、日本は「戦います」が13.2%、「いいえ」が48.6%、「わかりません」が38.1%。この項が世界一多いのを見て、愛国心のない日本人に怒りを覚えた。大学に軍事史学を禁じている国が、日本の他のどこにあるだろうか。
2022年11月、読売新聞とギャラップ社が実施した日米世論調査では、日本が防衛力を強化することについて「賛成」が68%、米国が65%。自国にとって軍事的な脅威になると思う国、地域については、日米とも「ロシア」が最多で、日本は82%(前回、2020年の調査では57%)、米国は61%だった。日本では北朝鮮がロシアと並ぶ82%(同73%)で、中国の81%(同77%)となっている。
習近平主席は建国100年の2049年までには台湾を併合すると言明している。軍は2027年までに併合すると豪語している。中国と台湾が仲良く合併することは期待できない。
台湾のシンクタンク・台湾制憲基金会が21年8月に発表した世論調査では、自分を「台湾人」と認識している人は67.9%、反面、中国人と認識している人は1.8%。台湾国立政治大学が21年7月に開始したアイデンティティ調査でも、台湾人が63.3%、中国人が2.7%、「台湾人でも中国人でもある」は、31.4%となっている。
戦中は台湾に蒋介石軍が雪崩込んで台湾のあり様は乱れたが、現在は以上の通り、台湾人に一新していると言っていい。
日米韓 vs. 中・露・北のそれぞれの陣営の軍事について次に予想するが、目下のところどちらかが攻撃して優位であることはない。攻撃には守備の3倍の軍備が必要だそうだが、今のところ総軍備の中で、米中の2軍備が秀でているそうだ。
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屋山 太郎(ややま たろう)
1932(昭和7)年、福岡県生まれ。東北大学文学部仏文科卒業。時事通信社に入社後、政治部記者、解説委員兼編集委員などを歴任。1981年より第二次臨時行政調査会(土光臨調)に参画し、国鉄の分割・民営化を推進した。1987年に退社し、現在政治評論家。著書に『安倍外交で日本は強くなる』など多数。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2023年8月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。