給与や賞与等の報酬は、働く人の企業への貢献が正当に評価されて、その対価として、支払われるものであるから、貢献を適正に反映するものになればなるほど、単に当然のものになるだけで、人を引き付け、引き留めるための特別の魅力を失っていく。
故に、人を引き付け、人を引き留めるものとして、働く環境を含む広義の福利厚生制度が重要な意味をもつ。例えば、高齢化社会において、長く働ける環境が提供され、しかも、その結果として公的年金を補完する企業年金の給付を受けられ、老後生活を豊かにできることは働く人にとっての大きな魅力であるし、小さな子供のいる人にとって、企業内に保育所があること、ペットのいる人にとって、それを職場に連れてきていいことは、大きな魅力である。
給与や賞与において、貢献に応じた処遇が徹底されていけば、当然に、そこに格差が生じるが、その格差は、合理的で公正な区別であって、不当な差別ではあり得ない。同一労働同一賃金ということは、裏を返せば、不同一労働不同一賃金ということでもある。それに対して、福利厚生制度や働く環境は、企業グループ全体の働く人に区別なく提供されるべきものであって、区別がないからこそ、企業グループ内の普遍的な価値を体現できるのである。
しかし、日本の現実では、合理的で公正な区別のあるべき給与や賞与に、不合理な悪平等や不当な差別があり、区別なく提供されるべき福利厚生制度や働く環境に、不合理な格差があるのではないか。
同一企業グループ内の福利厚生制度や働く環境に格差のあることは、企業グループの結合に合理性があるのなら、グループの一体感の醸成を妨げ、逆に不公平感を醸成するものとして不合理であり、公正さを欠く場合すらあるのであろうし。不合理でないのなら、企業グループの結合のほうが合理性を欠くのではないかとの疑念を生じさせる。
また、企業年金のように税制優遇措置の講じられている制度については、その裏で一定の社会公共性を前提にしているはずだから、合理性を欠く差別は、不当なものとして、規制されるべき余地があるとも考えられる。
さすがに日本の企業の現状としても、給与や賞与については、経営者の理解が進み、公正で合理的なものへの移行が徐々に行われつつあるのだろうが、福利厚生制度や働く環境、特に企業年金については、経営者の理解も政策の取り組みも十分ではないと思われる。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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