G20に出席しない習近平氏の心のうち

インドで9月9日と10日に開催されるG20に習近平氏は欠席し、代わりに李強首相が出席する見込みになっています。習氏は中国トップに就いて以来、G20には欠かさず出席してきただけに「今回は何故?」という疑問がいつもにもなく多く、そして様々な尾ひれがついて語られています。

習近平国家主席 中国共産党新聞より

なかなかうまい表現と思ったのがブルームバーグのこの1節。「シンガポール国立大学リー・クアンユー公共政策大学院の呉木鑾(アルフレッド・ウー)准教授によれば、習氏は今や『皇帝マインド』を抱いており、外国の要人が自分のところにやって来ることを期待している」であります。皇帝であるならば人民が崇拝すべき存在であり、大事に扱われなくていけないのだから「危険なところには行かない」という読みのようです。

事実、8月下旬に南アフリカで開催されたBRICSの会議には現地まで行っておきながら会議に出席せず、演説を代読させるという異例の行動に出ています。

習氏を引っ込み思案にさせた背景は何でしょうか?数々の内政、外交上の問題が噴出し、自身が10年以上にわたって貫いてきたやり方がいよいよ詰むのではないかという懸念だとみています。そしてその矢面に立つことが怖くて仕方がないのが行動に表れているのです。習氏は思った以上に小心者である、故に取り巻きが彼を守ることで習氏のメンツは保たれるというアプローチは決して外していないと思います。

最大の問題は私も再三指摘しているように習氏の第3期目は自分の身内だけで政権を牛耳る体制を作り上げたことです。更に長老の一人、江沢民氏が22年11月に死去しました。これで長老たちの動きが水面下になってしまい、日々の政策運営は敵なし状態となったことが最大の勘違いなのです。それらが正しい施策なのか、あるいは習氏の行動が高い緊張感を持ったものなのかはなはだ疑問となるような土壌を作ったのです。

個々の問題は数多くあります。ウクライナ問題に絡むロシアへの支援、米中関係、インドとの国境紛争、イタリアの一帯一路離脱、国内では若年層の失業問題、最大級の経済問題となっている不動産事業者の経営問題と融資平台の行方、更には政府の経済対策が小ぶりな打ち出の小づち状態であることもあります。

日経に前首相の李克強氏が中国北西部の世界遺産に突如現れた際、黄色い声で「総理!」と居合わせた人から声援を受けたとあります。大した話ではないかもしれませんが、中国人の中に現政権への不満が鬱積し始めている公算はあるのでしょう。

対日本の水産物の輸禁についても論理的ではなく、一部では中国人のためのガス抜きではないか、と見る筋もあります。ガス抜きならば上記の国民の不満を政権は認識しているということです。そして頑なだと思うのは公明党の山口代表が訪中を諦めたのみならず、岸田首相の意向を受けて二階氏にその解決に向けた交渉を託すも交渉困難と報じられています。つまり、相手が習近平派に染まっているため、交渉の糸口がつかめないわけです。これはとりもなおさず、中国政府をも苦しめているわけで関係悪化の一途を辿るということでしょう。

岸田首相はG20の前にインドネシアで開催されるASEAN会議があるため、そこで李強首相との会談を申し入れているとされますが、さて実現するのか、そして実現してもたぶん、平行線で終わるだろうとみています。なぜなら李強氏は習氏の意向を確認しないことには何も決められないからです。

中国は崩壊するのか、という話をすると大変喜ぶ方が多いのは知っています。私の見立ては崩壊した方が中国経済の回復は早いとみています。つまり、西側諸国にとっては今の状態の方が都合がよい部分もあります。仮に崩壊し、新政権が樹立した場合、今より状況が悪化することはない訳で14億の民が生み出す内需やビジネスは極めて大きなエネルギーになることは確実でしょう。それはそれで世界地図がまた変わるということになりえるわけで中国関係者や市場関係者を悩ますのであります。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年9月5日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。