「会社を潰してしまう社長は、アートが好き」は本当か?(横須賀 輝尚)

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「絶対に潰れない」そう思っていた会社が、突如倒産することがあります。古くは北海道拓殖銀行、山一證券。「聖域」と言われた銀行や証券会社もこのほかではありません。

バブル崩壊後も、リーマンショックや東日本大震災、そしてコロナ禍。様々な要因によって企業は倒産してしまうものですが、何もこのような大きな要因だけが倒産原因ではありません。

「多くの人が、自分の会社だけは大丈夫と思っている」

このように語るのは士業向けコンサルタントで行政書士の横須賀輝尚氏。「会社が倒産するのは突然。しかし、実際は小さな『倒産のシグナル』を出している」と指摘します。

今回は横須賀氏の著書「プロが教える潰れる会社のシグナル(さくら舎)」より、再構成してお届けします。

その美術品を、なぜ購入した?

経営者の中には、結構アートに凝る人や車や時計に凝る人も多く見受けられます。もちろん、きちんと売上を伸ばし、適切な役員報酬の中から嗜好品としてこれらのものを購入するのは何ら問題ありません。あくまで自分の給料からの支出なわけで、そこでは好きにしてどうぞという感じです。

SeventyFour/iStock

ポイントとしては、二つ。まずはそれらの嗜好品が、経営者の「本当に欲しかった」ものなのか、それともただの見栄なのか。どちらの動機によって購入されたのかが気になるポイントです。

本当に欲しかったものであれば、300万円を超えるロレックスでも、1000万円を超えるポルシェでも、欲しかったものなら大切に使うでしょう。でも、これが見栄からくるものだとちょっとたちが悪いというか危険な香りがします。

最近はそうでもない経営者は増えましたが、かつて経営者は経営者同士、マウントを取り合うような傾向がありました。

「あいつが100万円の時計なら、おれは200万円」みたいな。

特にいわゆるキャバクラのようなお店では、当然そういう高級アイテムを所持していることは称賛の的ですし、女の子に褒められながらほかの経営者にマウントが取れる一石二鳥アイテムです。場合によっては、それだけでモテるでしょう。

見栄による購入、承認欲求を満たすための購入には、終わりがないのです。つまり、こういった高級アイテムを持つこと自体はそこまでNGではない。でも一方で、「買い続ける」ことに対してはその動機によっては危険な兆候であるといえます。

加えて、美術品などをその価値がわからないのに収集している場合。本当に好きならいいです。

でも、これも見栄から集めているとしたらちょっと危険。なんというか、経営者ってレベルが高くなればなるほど、美術品やアートに造詣が深いほうが優れている、という空気があるんですよね……なんででしょう。

美術品や車は本当に会社の資産なのか?

もうひとつのポイントが、こうした美術品や嗜好品を「資産」と言い切っているかどうかです。

前述のとおり、役員報酬で買うのは結構。でも、このようなアイテムを会社のお金で買うとなるとまた話は変わってきます。建前としては、そもそも会社のお金ですから、本来個人的な用途に使うべきではありません。

しかし、実際会社というのは経営者と密接不可分で、公私混同なんて当たり前。だから、これらを止める術は社員にはないわけですが、「これは資産として売却することもできるから」っていう理由には、ちょっと注意が必要です。

なぜなら、美術品にせよ時計にせよ、市場価値があるかどうかなんて、売るときにしかわからないからです。

いまは300万円の価格がついている時計も、将来的には半分になるかもしれない。新品未使用ならともかく、見栄っ張りの経営者は必ず時計ならその時計を身に付けて使います。見せびらかしたいから。だから、価値が残るかどうかわからないわけです。

特に絵画などの美術品って、買うのは簡単なんですけど、売るのって難しいんです。贋作かどうかの鑑定もあるし、そもそも買い手が見つかるかどうかもわからない。

いざというときに、売れないものや価値のないものをいま「資産」と言って私的に購入する経営者……ちょっと怖いですよね。

横須賀 輝尚 パワーコンテンツジャパン(株)代表取締役 WORKtheMAGICON行政書士法人代表 特定行政書士
1979年、埼玉県行田市生まれ。専修大学法学部在学中に行政書士資格に合格。2003年、23歳で行政書士事務所を開設・独立。2007年、士業向けの経営スクール『経営天才塾』(現:LEGAL BACKS)をスタートさせ創設以来全国のべ1,700人以上が参加。著書に『資格起業家になる! 成功する「超高収益ビジネスモデル」のつくり方』(日本実業出版社)、『お母さん、明日からぼくの会社はなくなります』(角川フォレスタ)、『士業を極める技術』(日本能率協会マネジメントセンター)、他多数。
会社を救うプロ士業 会社を潰すダメ士業 | 横須賀輝尚 https://www.amazon.co.jp/dp/B08P53H1C9
公式サイト https://yokosukateruhisa.com/

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編集部より:この記事は「シェアーズカフェ・オンライン」2023年9月4日のエントリーより転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はシェアーズカフェ・オンラインをご覧ください。