ゼレンスキー氏がワシントンを訪れ、バイデン氏らと21日に会談する予定となっています。ウクライナ戦争に関してはウクライナ側を全面支援するアメリカの存在感が強く影響しています。本来であれば地政学的にもっと積極関与するかと思われた欧州諸国の姿勢はまだら模様。欧州はNATOやユーロの縛り的な部分もあり個別対応より全体のバランスで思い切った動きが取れない中、同じNATOに加盟するアメリカは比較的独自の判断で動いています。
ゼレンスキー氏としてはアメリカからの支援取り付けによって欧州の一部の国からの支援も生まれやすいという流れをくみ取り、アメリカとの関係強化が政策的には重要だと考えているのでしょう。特に最近ウクライナの隣国ポーランドとの関係が急速に悪化しており、来年は難民受け入れを止めることになりそうで、ウクライナの形勢はあまり芳しくないのです。
アメリカも一枚岩ではありません。共和党はウクライナへの関与について「やり過ぎだ」というポジションですし、世論はCNNの調査で55%が追加支援に反対しています。侵攻後の22年2月には支援支持が62%であったことと比べれば確かに変わってきたことは否めません。
アメリカ国民の不満の一つは物価高などで他国のことより自国のことと考える人が増えていることはあるでしょう。一般的に選挙をする際に公約の打ち出し方は経済対策や生活支援という選挙民が強く影響を受ける政策が効果的で、外交は選挙公約からは最も遠いイシューになります。一方、大統領制をとるアメリカにおいて大統領がほぼフリーハンドで活躍をしやすいのが外交であることもまた事実です。議院内閣制度の日本においても岸田首相や安倍元首相が外交に力を入れるのは法制化作業は議会が主導するため、華やかさも含め外交はポイントゲットしやすいことはあると思います。
国民の意思に対してアメリカ議会は難しいかじ取りになりそうです。3兆5千億円の追加予算承認に対して共和党はイデオロギーとしての反対、世渡りとしての賛成という煮え切れない態度をとるのでしょう。共和党のオフィシャルな最上位人物は下院議長のケビン マッカーシー氏。彼もゼレンスキー氏訪米の際には会談の予定となっていますが、面と向かってNOとは言いづらいところはあるのでしょう。仮にトランプ氏が大統領であればNOを突き付けた可能性はあると思います。これが政治であり、場の雰囲気ということなのでしょう。
アメリカ国民がゼレンスキー氏の懇願を受け入れて様々な支援を施し、ロシア制裁を強めることでアメリカが果たす世界への役割はアメリカが世界の警官ではなくても裁判官ぐらいのチカラは残っていることになります。そしてアメリカが今後も世界に誇る圧倒する能力をも持ち続けることでその求心力はより強化されます。よって1年ちょっとで行われるアメリカ大統領選に対してアメリカ経済が安定し、かつ力強さを維持できれば民主党へのフォローの風は吹きやすくなります。
一方、経済がハードランディングするなど想定外の事態が生じれば共和党に分があると読めそうです。
アメリカ国民としてもアメリカが支援した武器、物資が有効に使われ、成果があることを期待しているわけで来年11月までにこの戦争がウクライナに有利な形で展開、ないし休戦、終戦をもたらせば個人的には民主党優勢は変わらないと思います。
移民国家においてかつてのようなローカルの住民と新しい移民とのメンタルな確執は何十年もかけて変質化しています。例えばカナダでも移民が主導する経済や政治になり、様々な声を政治に反映せざるを得ない社会となりました。故にカナダでもかつては強かった保守党は中道左派の現政権、自由党や躍進目覚ましい新民主党に対して劣勢なのです。同様に英国でも現保守政権は次の選挙で政権交代となり、労働党が主導権を握るとみられるのは中道左派がかつての生活貧困者や社会的弱者というスタンスから広く労働者一般の支持層に変わってきていることもあります。
この流れがアメリカでも起こりうるなら今の時代に於いては共和党の流れにはなりにくいということはご理解いただけると思います。
但し、大統領選挙となると民主/共和という括りだけではなく、候補者個人の評価点もその判断で大きく変わります。仮に大統領選がバイデンVSトランプとなればこれは国民は興ざめするでしょう。一方、例えばケネディVSデサンティスとなればこれは盛り上がるかもしれません。結局、大統領選を制するのは出身政党もさることながら個人のネームバリューと期待度が最大の決め手です。
ゼレンスキー氏がもたらす大統領選への影響とはウクライナへの多額の支援が実りあるものになるかどうか、これがキーであり、仮にウクライナに不利な事態が生じれば一気に共和党支持の動きに展開します。その上で外交がメインディッシュにならない大統領選に於いてバイデン氏のウクライナ政策の評価が隠し味になる、これが現時点での位置づけではないかと考えています。
では今日はこのぐらいで。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年9月20日の記事より転載させていただきました。