国家とは何か、これは難しい問題だが、そこに国民を支配する価値的なもの、実態的なものを認めることについては、危険な逸脱を生じかねないものとして、慎重でなければならず、むしろ、逆に国民が支配するものとして、国民の共通利益に貢献するものとして、国民間の相互扶助組織として、経済取引に準じてとらえるほうが無難なのだから、税金や社会保険料の納付義務に対しては、役務の提供を受ける権利を対抗させるべきであろう。
この役務の提供においては、全ての国民を等しく扱うことが求められるから、全国民に共通のものとして、最低限の水準に留まらざるを得ず、むしろ、最低限だからこそ、公正公平性が保たれているのであって、最低限を高く設定すると、不公正、あるいは不公平を生じかねないのである。つまり、最低限を超える水準については、国民の多様性が認められるべきだから、国民の自治自律を前提にして、政策的な支援を行うにしても、税制優遇措置や補助金等の手段が用いられるべきなのである。
更にいえば、健康保険については、現行の最低水準を引き下げて、民間の保険会社の提供する医療保険に代替させ、支払保険料に税制優遇措置を設ける方法もあり得るわけだ。そして、危険に応じた保険料の算定方式を導入すれば、健康管理を徹底すればするほど負担が軽減するから、総医療費の削減に対する利益誘因が生じるわけで、より優れた制度設計になるとも考えられる。
つまり、全ての国民を等しく扱うことは、公正公平のように見えても、自助努力する人も、しない人も、等しく扱うという悪平等であり得るのであって、別の見地から公正公平性をとらえて、国民の自主自律、自助努力を奨励するような制度設計にも充分な顧慮が払われなければならないのである。別のいい方をすれば、同じ権利を主張するにしても、医療を受ける権利という受動的なものと、自分の健康を自分で管理する権利という能動的なものとがあり得るわけだ。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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