防衛省は計画されている「無人水陸両用車」について、珊瑚礁を乗り越える能力を持ち、島嶼部の「あらゆる正面」から上陸が可能としています。
有人車両と無人車両を開発し、有人車両から複数の無人車両を操作することを視野に入れているようです。島嶼の奪回作戦では、まず無人車両が前衛部隊として突入し、自律的な機動や火力を発揮。輸送作戦では、有人車両が無人車両を統制してコンボイ(車列)輸送を行うとしています。
ぼくが概算要求レクでした質問と随分違います。どこで取材したのでしょうか。
件の質問の回答では、無人型は輸送型に特化するという説明だったはずです。事実ではない説明を行ったのでしょうか。これが本当ならば荒唐無稽もいいところです。
そもそも論でいえば、現在の上陸作戦は水平線の向こう、40キロは沖合から行われます。AAV7よりは速いといってもたかが知れている水陸両用装甲車が本当に使い物になるのか。米海兵隊ですらAAV7の近代化を諦めて通常型の8輪装甲車を選定しました。
英海兵隊は二連結のバイキング装甲車と舟艇を組み合わせた運用をしており、これとヘリの二本立てで揚陸作戦を行います。更に申せばバイキングに支援車輌には同じく二連結のソフトスキン車輌を使用しています。
例えばAAV7と同じ50両ほどの有人車に加えて無人の車輌を同数導入するとして、一体何で運ぶのでしょう。更に申せば、輸送型であれば装甲車ではなくていいでしょう。生産数を無理に嵩上げするための方便ではないでしょうか。
そんなコストが高い無人車より、低圧タイア履かせた非装甲の無人車輌を舟艇に載せて運んだ方がよほど合理的でしょう。
更に申せば、三菱重工はゴム製履帯も研究しています。これが実用化するかどうは微妙だと思います。
実は先日のロンドンで行われたDSEIでミシュランがゴム製履帯を展示していました。これから軍用のゴム製履帯市場に参入するとのことです。
同社は産業用の建機や農業用器具向けのゴム製履帯は長い経験があるが、軍用では非常にハードル高く、長期を研究開発に費やして、満を持しての参入だそうです。今後市場をほぼ独占しているカナダのソーシー社と一騎打ちになるでしょう。同社の担当者によれば、横浜ゴムもかつてゴム製履帯に参入して撤退したといっていました。
果たして三菱重工が限られた開発予算で満足できるものができるでしょうか。そしてできてもわずか100両程度の数しか生産しない装甲車専用となるならべらぼうに高いものになでしょう。少なくとも自衛隊の既存車両の履帯を置き換える、さらには輸出も視野にいれないと採算化はむりでしょう。
個人的には白日夢にしか思えません。
編集部より:この記事は、軍事ジャーナリスト、清谷信一氏のブログ 2023年9月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、清谷信一公式ブログ「清谷防衛経済研究所」をご覧ください。