アルゼンチンでなぜ貧困層が増えるのか?

 1800万人が貧困者

20世紀初頭の経済大国アルゼンチンは100年後の今、長期の経済低迷、高騰インフレそして貧困層の増加で苦しんでいる。

今回取り上げたいのは貧困層の増加についてである。歴代大統領で最悪の大統領と評価されているアルベルト・フェルナンデス大統領の政権下での貧困率は39.2%に達している。即ち、1800万人が貧困者ということだ。

前任者のマウリシオ・マクリ大統領の時の30%の貧困率を批判して大統領になったフェルナンデス氏であったが、彼の政権下で逆に貧困率は増加している。それもあって、フェルナンデス大統領は二期目の出馬再選を断念させられた。

更に深刻なのはその8.1%(370万人)が絶対的貧困者とされていることだ。即ち、生きる為に最低限必要な食料など生活必需品さえも必要なだけ購入できない人たちだ。そして14歳未満の子供だと二人にひとりが貧困者となっている。

特に、コロナによるパンデミックが貧困層を増やすことに影響した。パンデミックの最盛時には貧困率は42%にまで到達した。

貧困層の家庭での毎月の平均収入はドル換算でおよそ390ドル。ところが、食料など生活必需品は613ドルが必要とされている。即ち、生活するのに必要な物がすべて購入できないことを意味する。

通貨ペソの対ドルの終わりなき切り下げが貧困層を増加

アルゼンチンでなぜこのような事態が発生するのか。理由は長期のインフレによる通貨の切り下げである。公式レートでみると2020年8月のペソの対ドルレートは74ペソ。それが先月8月の公式レートは349ドル。闇市場では700ドルを超えている。しかも、昨年のインフレは95%。今年は135%以上が予測されている。貧困者の収入が増えることがないのに継続したペソの切り下げで商品価格が上昇しているから貧困者にとって購入できるものが次第に減少している。

現地紙「イ・プロフェシオナル」が8月31日付で最近4人の大統領の政権時のインフレ上昇率についてグラフにしている。

ネストル・キルチネール(57カ月で67%)

クリスチーナ・フェルナンデス(1期目51カ月で121.9%、2期目51カ月で177.2%)

マウリシオ・マクリ(51カ月で295%)

アルベルト・フェルナンデス(47カ月で609.8%)

即ち、2003年から2023年までのこの4人の大統領の政権下でアルゼンチンの累積インフレは1270.9%ということになる。ということから多くの中流層も貧困層に転落しているということだ。

皮肉にも失業率は6.8%と比較的低い。ところが、被雇用者の多くが非契約社員ということで、彼らは雇用者と労働組合によるインフレの上昇にスライドしての賃上げの対象外にされている人たちだ。

1月に新大統領が誕生することへの期待感が唯一貧困層の不安を和らげている

今年10月に大統領選挙が予定されている。そして来年1月に新大統領が誕生することになっている。多くの国民は新政権が誕生するということで市場の好転を期待している。その期待を一番多く集めているのが自由至上主義の新しい政党「前進ある自由」で、米国トランプ前大統領とブラジルのボルソナロ前大統領を彷彿させるその党首ハビエル・ミレイ氏である。彼は現在トップの支持率を維持している。前者2人と比較してミレイ氏は経済専門家で民間の金融機関でも働いた経験を持つ人物だ。彼は法定通貨として米ドルの導入を政策のひとつにしている。

果たして、新しいアルゼンチンの誕生となるのか。先ずは10月の大統領選挙に注目して見よう。