独ローマ・カトリック教会ミュンヘン・フライジング大司教区のラインハルト・マルクス大司教(枢機卿)はミュンヘナー・メルクーア紙(9月19日付)とのインタビューで、「同性カップルに神の祝福を与えるか」と質問され、「常に具体的な状況に依存するが、彼らが神の祝福を求めるならば、それに応じるだろう」と答えている。実際、多くのカトリック教会では既に同性カップルのための祝福の儀式が行われているが、教理上からみて問題がないわけではない。
バチカンは2021年、「神の計画に従って明らかにされたものとしては客観的に認識されない」として、同性パートナーシップの祝福は「許可されていない」と明確にした。それでも、マルクス枢機卿のように、同性カップルに神の祝福を与えようとする聖職者が絶えないのだ。「教理」と現場での「実践」の間に次第に格差が広がってきている。
最近、デュッセルドルフ近郊のメットマンの教区神父が同性カップルの祝福式を実施したが、保守派聖職者で知られるケルン大司教区のライナー・マリア・ウェルキ枢機卿から叱責を受ける、といった出来事が起きたばかりだ。神の祝福を与えるべきだと主張する聖職者たちは、「私たちは、教会的に結婚の秘跡を受けられないカップルがいることを知っている。しかし、彼らがそのために牧会から排除されることはあってはならない」と指摘している。
ところで、マルクス枢機卿は2019年12月12日付の週刊誌シュテルンのインタビューの中で、「カトリック教会は同性愛者の人々を歓迎する。同性同士が長年互いに誠実にカップルの生活を送っているなら、教会は彼れらの生き方に一概に負や無の評価をくだしてはならない」と述べる一方、「カトリック教会は同性カップルにも“司牧的に寄り添う” (seelsorgliche Begleitung)ということであって、『結婚の秘跡』を授けるわけではない」と断っている。同枢機卿は4年前の時点で同性カップルに「司牧的に寄り添う」と表現する一方、「結婚の秘跡を授けるわけではない」と両者の違いをはっきりと強調していた。
同枢機卿の発言は当時、教会内外で大きな波紋を投じ、「私は多方面から批判を受けている。ある人々は『彼はやりすぎだ』と言い、ほかの人々は『彼は不十分だ』と言う」と述べている。忘れてならない点は、マルクス枢機卿はフランシスコ教皇を支える枢機卿顧問評議会メンバーの1人であり、教皇の信頼が厚い高位聖職者だ。同枢機卿の発言はフランシスコ教皇の意向が反映していると受け取って間違いないだろう。
ドイツのカトリック教会は現在、教会刷新活動「シノドスの道」を推進している。「シノドスの道」は教会聖職者の性犯罪の多発を契機に始まったもので、フランシスコ教皇が2019年に開始し、世界各教会で積極的に協議されてきた。独司教会議が提示した主要な改革案は、①ローマ・カトリック教会はバチカン教皇庁、そして最高指導者ローマ教皇を中心とした「中央集権制」から脱皮し、各国の教会の意向を重視し、その平信徒の意向を最大限に尊重する。②聖職者の性犯罪を防止する一方、LGBTQ(性的少数派)を擁護し、同性愛者を受け入れる。③女性信者を教会運営の指導部に参画させる。女性たちにも聖職の道を開く。④聖職者の独身制の見直し。既婚者の聖職者の道を開く、等々だ。(「教皇の発言でキレた独司教会議議長」2023年2月1日参考)。
同性カップルの祝福の認可は、ドイツの改革プロセスである「シノダーラー・ヴェク」の主要な要求だが、バチカン教皇庁は独教会の改革案が行き過ぎと判断し、再考を要求している。そのような中、フランシスコ教皇の最側近のマルクス枢機卿が独紙のインタビューの中で同性カップルへの祝福を認める趣旨の発言をしたわけだ。
ローマ・カトリック教会は2015年10月、3週間に渡って世界代表司教会議(シノドス)を開催したが、フランシスコ教皇は当時(15年10月4日)、シノドス開催記念ミサで、「神は男と女を創造し、彼らが家庭を築き、永久に愛して生きていくように願われた」と強調した。その教皇は同月25日の閉幕の演説の中では、「家庭、婚姻問題では非中央集権的な解決が必要だ。教会は人間に対し人道的、慈愛の心で接するべきだ。教会の教えの真の保護者は教えの文字に拘るのではなく、その精神を守る人だ。思考ではなく、人間を守る人だ」と指摘し、信者を取り巻く事情に配慮すべきだと述べたのだ。
教皇のシノドスの開会式と閉幕式の発言では、同性愛問題で微妙なニュアンスの違いが浮かび上がってくる。教皇自身が教理主義の保守派聖職者と現場主義の改革派聖職者の間の真っ只中にいて揺れ動いている。このことは教皇の最側近のマルクス枢機卿にも言えることではないか。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年9月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。