長距離地対地ミサイル供与の効果

ウクライナのゼレンスキー大統領は訪米ではあることを肌で感じたのではないか。最大の支援国・米国でもウクライナ戦争への関心が減少していることをだ。バイデン米大統領はウクライナへの追加支援を発表したが、米議会でのゼレンスキー大統領への歓迎ぶりは昨年12月の最初の訪米時と比べれば、明らかに冷めていた。米議会での演説も出来ず、米国らしい熱狂的な歓迎といったシーンは少なかった。

米陸軍の長距離地対地ミサイル「エイタクムス」 Wikipediaより

次期大統領選を来年11月に控えている米国では政治家も有権者も最大の関心事は次期大統領選に注がれている。大統領を含む政治家の全ての言動は選挙戦にプラスか否かが最大の判断基準となる。戦場から飛んできたゼレンスキー氏は一抹の不安と寂しさを感じたに違いない。その点、米国訪問後のカナダ訪問(22日)では大歓迎を受け、ゼレンスキー氏は鼓舞されたことだろう。カナダのトルドー首相は今後3年間で約715億円相当の追加支援を発表した。

ゼレンスキー氏はカナダ訪問後、帰国の途上、ポーランドに寄ったが、ポーランドの政治家との会合はなく、負傷したウクライナの子供たちの支援活動に活躍したポーランド人に国家賞を授与したことが唯一のトピックだった。ウクライナ産穀物輸入問題でウクライナとポーランドの間で対立が生まれてきている。そのうえ、ポーランドは現在、議会選挙戦(10月15日実施)の最中だ。与野党は農民層の支持を得るためにウクライナ産穀物輸入には強く反対し、ウクライナとの関係は現在、険悪となってきた。ウクライナ戦争の勃発以来、隣国ポーランドはウクライナからの避難民の最大受け入れ国であり、武器も積極的に供与してきた支援国だった。何度もキーウまで足を運んで支援を表明してきたモラウィエツキ首相は現在、ウクライナ批判の最先頭に立っている、といった具合だ(「ウクライナ戦争と欧米の『選挙戦』」2023年9月23日参考)。

ところで、ゼレンスキー氏の訪米での成果は、当初供与を渋っていた射程約300キロの長距離地対地ミサイル「ATACMS」(エイタクムス)の供与をバイデン大統領が土壇場で約束したことだ。それに先立ち、バイデン氏はウクライナに対する総額約3億2500万ドル(約480億円)の追加軍事支援も表明したが、長距離地対地ミサイルの供与は最後まで拒否していた。

長距離大型地対地ミサイルの数や供与時期は未定だが、米国がエイタクムスをキーウに供与することを決めたことで、ドイツの長距離巡航「タウルス」(Taurus)のキーウ供与の道が大きく開かれる。ショルツ独首相は主力戦車「レオパルト2A6」のキーウ供与問題でも常に「わが国は単独ではできない。米国がその主力戦車『M1エイブラムス』を供与するなら、ドイツもそれに応じる用意がある」と表明。米国が今年1月25日、主力戦車の供与を決定した時、ドイツ側は同時に「レオパルト2A6」の供与を決定した経緯がある。

それだけに、ドイツ製長距離巡航ミサイル「タウルス」の供与問題でも同じことがいえるというわけだ。ちなみに、ドイツ製長距離巡航ミサイル「タウルス」の射程距離は米国のそれより長い約500キロだ。米国とは違い、ウクライナにとって欧州大陸のドイツから長距離巡航ミサイルを獲得できれば、運搬も補給作業も米国のそれより容易だ。英国とフランスは既に射程距離250キロのミサイルをウクライナ軍に供与しているが、ドイツの「タウルス」が加われば、モスクワにとって脅威となることはいうまでもない。

ウクライナは現在、2014年にロシア側に併合されたクリミア半島の奪回を最大の目標としている。ウクライナ軍は22日、クリミア半島の軍港都市セバストポリにあるロシア海軍黒海艦隊司令部を攻撃し、大きなダメージを与えたという。ウクライナ軍が米国やドイツから長距離地対地ミサイルを獲得できれば、ロシア軍への攻撃力は数倍強化され、戦局を大きく左右することにもなる。例えば、ロシア本国とクリミア半島を結ぶ「クリミア橋」が完全に破壊されれば、ロシア軍のウクライナ南部への補給は完全に断たたれる。

参考までに、ウクライナとの戦争が始まって以来、約3500人の兵役年齢のロシア人男性がドイツへの亡命を申請している。ドイツ連邦内務省が明らかにしたものだ(独週刊誌「ツァイト」オンライン9月24日)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年9月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。