政治化した自動車産業の行く末①:労組ストライキ

アメリカの自動車産業のストライキが深刻化しています。ビック3の組合が労働条件の改定を求めて行っているストライキにまさかのバイデン大統領の援護、応援が入るとされています。バイデン大統領はアメリカの自動車産業のEV化を推し進めるべくインフレ抑制法に於いて特定条件を満たしたEV車の購入には補助金がつき、販売が加速しているところです。

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今回大手3社がストライキに入ったのは必ずしも労働条件改定だけではなく、産業の急激な変化に対する自動車産業従事者の切実なる声を反映したものだと考えています。とすればバイデン氏はEV自動車の普及を目指す補助金を出す一方で、内燃機関の自動車を作る労働者の雇用を守る方にも応援するという実に頓珍漢な動きを示すことになります。

バイデン氏がそうせざるを得ないのはなぜでしょうか?やはり私には1年1か月後に迫りつつある大統領選に向け、全米自動車労組(UAW)を支持し、大統領選に於いて自身、そして民主党の支援をもらいたいという選挙対策が透けてみます。もちろん、民主党の立場からすれば労働組合を支持するのは当然の政策ではありますが、今回の労働組合の要求は4年間で30-40%の賃上げなどあまりにも大きく、会社が面倒を見る従業員の間接コストもより高くなることで国際競争力という点では完全に力を削ぐことになります。

ご記憶にあるかと思いますが、いわゆるアメ車は性能が悪く、故障も多いというイメージが長年ありました。いや、イメージだけではなく事実だと思っています。私もカナダでアメ車を何台も乗り継いできた中で新車の見た目の良さと数年使った後のへたり具合があまりのギャップで下取り価格も低く、クルマとしての価値は悩ましいものでした。では、なぜ、それでもアメ車を買い続けたかといえばラグジュアリーな内装に対して欧州や日本のクルマに比べて若干安かったのです。あと、排気量が大きく、ボディーもフルサイズになれば長さは5メートル越え、アメ車独特のサスペンションの柔らかさでハイウェイ走行時はまるで自宅のソファに座っているような心地よさが長距離ドライブにはうってつけだったのです。

さすが、このところは品質改善も進んだのだろうと察します。しかし、労働組合の言いなりになれば輸出などの競争力は維持できず、十分な利益が取れず、それが最終的には研究開発費の削減につながりかねません。

ご存じの通りアメリカは確かに物価が高いのでそのアメリカの労働者はインフレに見合う労賃の引き上げ要求は当然起きます。が、アメ車を含めアメリカ国内で製造される商品の労働コストが上昇すれば当然ながら見合いの販売額引き上げとなります。問題は他国ではアメリカほどの物価水準ではないのです。私が高いと悲鳴を上げるカナダの物価でもアメリカに比べれば何割も安いのです。

経済学的には自動車産業のように多くのライバル会社が世界に散らばっており、販売も世界展開するのであれば経営者は価格競争力を維持するための最大限の努力をします。ですが、仮に大統領が労働組合の味方をし、破格の労働条件を経営側に飲まさせることになればそれはアメリカの自動車産業の崩壊を意味することなのです。

多くの自動車会社では既に一定時期に内燃機関の自動車製造を止める、ないし相当縮小し、EV化することを打ち出しています。今回の労組の要求は企業側にEV化を更に推し進めさせることになり、下手をするとアメリカで予想よりも早くEV化が進んでしまう気がします。果たしてそれがバイデン大統領の真の戦略なのかそれは私には分かりませんが、たぶん、そんな深い考えよりも目先の票ではないかと思います。

そういう意味では今回は自動車労連が政争の具と化したとも言える気も致します。

明日は政治とEVについて考えてみたいと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年9月26日の記事より転載させていただきました。