核兵器は「イスラムの教え」に反する

国際原子力機関(IAEA)の第67回年次総会は25日、5日間の日程で本部のウィーンで開幕した。同総会(加盟国177カ国)では、ウクライナ南東部にある欧州最大規模のザポリージャ原子力発電所の安全問題、日本の福島第一原発の処理水の放出問題などのトピックのほか、イランの核計画問題、北朝鮮の核問題などが協議される。

第67回IAEA年次総会でオープニングスピーチをするグロッシ事務局長(2023年9月25日、IAEA公式サイトから)

「イランは核兵器を製造しない」と答えるライシ大統領(IRNA通信9月25日から)

ここではイランの核問題についてまとめておく。

IAEAの9月理事会(35カ国理事国)に提出されたイラン核問題に関する最新報告書では、「監視カメラの再設置など未解決問題の解決は進展していない」と指摘された。IAEAのグロッシ事務局長は2月28日、イランの核関連施設で濃縮ウラン83.7%が発見されたことを確認している。兵器用濃縮ウラン90%までもはや手の届くところまできている。濃縮ウラン83.7%の痕跡は、今年1月、イラン中部フォルドーの地下ウラン濃縮施設の検査中に発見された。イラン当局はIAEAに対し、「非常に高いレベルの濃縮は意図しない変動で生じたもの」と弁明してきた(「イラン『濃縮ウラン83・7%』の波紋」2023年3月2日参考)。

ちなみに、9月のIAEA報告書によると、イランは8月19日時点で60%に濃縮した六フッ化ウランを推定121・6キロ貯蔵している。5月の報告書から7.5キロ増えた。

また、イラン当局はここにきて同国の核施設の査察を目的としたIAEAからの追加査察官の認定を取り消している。グロッシ事務局長は今月16日、「イランのウラン濃縮活動を監視するIAEAの監視能力が大幅に制限される」と発表し、「イランの決定は、間違った方向への新たな一歩だ」と述べ、懸念を表明した。

イラン側は、「ドイツ、フランス、英国が今月14日、核開発計画を巡るイランに対する既存の制裁を解除しないと決定したことを受けた対応だ」と主張。イラン外務省のナセル・カナニ報道官は声明で、「西側諸国がイスラム共和国とIAEAの協力を妨害しようとしている」と非難し、「査察官の認定取り消しは合法である」と強調した。

IAEA年次総会に先駆け、イランのライシ大統領は米CNNとのインタビューに応じている。同大統領は「イラン人は自国のウラン濃縮を純度60%レベルまで上げた、これは2015年の核合意を欧州諸国が遵守していないことへの対応だ」と述べる一方、兵器級レベル近くまでのウラン濃縮をきっぱり否定し、「われわれが取ろうとしている行動は、いかなる種類の核兵器やいかなる種類の軍事的側面に及ぶことを意図したものではないと公式に発表されている」と説明した。

イラン最高指導者ハメネイ師は過去、「大量破壊兵器の核兵器はイランの教えとは一致しない」と強調し、イランが核兵器を保有する考えがないことを繰り返し主張してきた。

イランは2015年7月、国連安保理常任理事国5カ国にドイツを加えた6カ国と核合意を締結し、イランの核開発計画があくまでも核エネルギーの平和利用と主張してきた。イランの核合意の代わりに、制裁を解除することになっていた。しかし、トランプ米前政権は2018年5月、イランが核合意の背後で核開発を続行しているとして核合意から離脱。それ以来、イランは順次に核合意で締結した合意内容を破棄してきた。

そして、21年1月1日、同国中部のフォルドウのウラン濃縮関連活動で濃縮度を20%に上げると通達。2月6日、中部イスファハンの核施設で金属ウランの製造を開始している。4月に入り、同国中部ナタンツの濃縮関連施設でウラン濃縮度が60%を超えていたことがIAEA報告書で明らかになっている。なお、イラン議会は20年12月2日、核開発を加速することを政府に義務づけた新法を可決した。そして今回、ウラン濃縮83.7%の製造だ。イランの核開発計画は核拡散防止条約(NPT)など国際条約の違反であり、国連安全保障理事会決議2231と包括的共同行動計画(JCPOA)への明らかな違反だ。

一方、イランの核武装化を恐れるイスラエルは、「テヘランが核兵器を保有することは絶対に容認されない」と指摘、必要ならばイランの核関連施設を空爆すると警告してきた。イスラエルは2007年9月、シリア北東部の核関連施設(ダイール・アルゾル施設)を爆破したことがある。

スンニ派の盟主サウジアラビアもイラン(シーア派)の核兵器開発をただ静観していることはないはずだ。サウジの実質的統治者ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は20日、米FOXニュースとのインタビューの中で、「イランの核武装は悪い一歩。もしテヘランが核爆弾を手に入れたら、サウジも同じことをしなければならなくなり、地域全体での核軍拡競争をもたらすだろう」と警告を発している。

ところで、同総会では中国や韓国の代表が基調演説の中で、福島第一原発の処理水の海洋放出開始について言及するものと予想される。IAEAは独自の調査結果をまとめ、「福島第一原発の処理水放出では国際規約に一致し、問題はない」と公表済みだ。日本からは高市早苗経済安全保障担当相が出席し、処理水の放出に加盟国の理解を求める。

なお、グロッシ事務局長の再任が今回の総会で承認される。任期は今年12月から4年間だ。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年9月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。