3年半ぶりの海外出張で台北に来ている。
前回の海外出張は、2020年1月に内閣府「AIホスピタル」プロジェクトグループによる海外視察のための、シアトル(マイクロソフト)とサンフランシスコ(サーモフィッシャー・グーグル・IBMなど)の訪問だった。一つの大きな町とも呼べるマイクロソフト社の広大な敷地が印象的だったし、AIホスピタルプロジェクトがチームAIホスピタルへと進化する大きな契機となった。
胸をワクワクさせていた「AIホスピタル」の責任者の立場も終えて、私の本業は国立研究法人の管理職だけとなり、研究現場から離れつつある。こんなことをするための理事長かと思えるような案件に追われている。サイエンスを患者へ還元するという気持ちは失せていないが、人に任せることは歯痒いことを感ずる日々となっている。もう、終活を始めてもおかしくない歳になったのだから、仕方がないのだが。
そして、今回の出張も5年間リーダーを務めたAIホスピタル関係だ。台湾と日本とのスマートホスピタル会議で特別講演に招かれた。
東京に住んでいると羽田発で台北市内の松山飛行場に行く便がある。松山飛行場から台北駅まで地下鉄で10分程度だ。しかし、大阪からは、関西空港発桃園空港行の便しかない。飛行時間は2時間20分だがその前後の移動や手続きの時間も合わせると5時間以上かかってしまう。
そして、桃園空港はかつて蒋介石国際空港と呼んでいた空港だが、台北まで時間がかかる。とは言うものの、親日国である台湾に来るとホッとするような温かさを覚える。
そして、特別講演に招かれたが、スマートホスピタルやデジタル化された医療では、日本の方が後進国である。以前も紹介したが、台湾の高雄で受けた検査結果は、台北の病院でも共有可能だ。日本では、東京から大阪の病院に移ると、再検査を受けることが少なくない。そして、診療情報提供書やCDに入力された情報を再入力しなければならない。
日本では重篤な薬疹の情報は収集されることはあっても、患者さんの血液が特定の研究機関に収集されることはない。台湾では臨床情報と共に血液が収集されるようになっている。そして、薬疹の原因がHLAにあるということを明らかにしたのも台湾の研究者だ。
コロナ流行が始まった時、台湾では日本のマイナンバーカードに相当するカードでマスクの売買が管理されていた。日本では拝金主義の業者が抱え込み、ハイエナのような人たちに買い漁られて、結果として安倍マスクというあきれかえるような状況に至った。しかし、この管理された体制は、日本の占領下に始まると私の台湾人の友人が言っていた。
台湾にはかつての日本にあったが、今は失われた貴重なものがたくさん残っている。私はそんな台湾が大好きだ。
編集部より:この記事は、医学者、中村祐輔氏のブログ「中村祐輔のこれでいいのか日本の医療」2023年9月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は、こちらをご覧ください。