資金調達なくしては石炭火力発電所の建設はあり得ないから、資金調達の支援機能である金融には一定の優越的な力があり、その優越的な力を金融が行使すれば、石炭火力発電所の新規建設を不可能にすることもできる。問題は、優越的な力の行使が社会的に許容され得ない濫用に該当するのか、それとも全く逆に環境問題の解決へ向けた社会的に称賛されるものになるのかということである。
つまり、環境問題に限らず全ての社会問題に関して、銀行等の金融機関の見解が問われているのではなくて、発電事業に限らず資金を必要とする全ての産業における社会問題の解決に向けた努力に対して、金融機関がとるべき態度が問われているのである。換言すれば、金融界が社会的価値を創造するのではなく、産業界が社会的価値を創造するのであって、金融界は単に資金調達面における支援をするにすぎないものとして、価値中立的に行動すべきだということである。
故に、石炭による火力発電が政治的に禁止にならない限り、そして正当なる経済的諸条件を満たす限り、新しい発電所の建設について金融は支援すべきであって、金融の優越的な力を行使して石炭火力を廃止に追いこもうとすることは、金融の優越的力の横暴な行使であり、危険な逸脱であって、不遜な勘違い、もしくは思い上がりになるといっていい。
逆に、産業界が政治的決定を見越して自主自律的に石炭火力の廃止を進めるのならば、金融は積極的に支援すべきである。金融とは産業界の意思を資金供給によって実現することである以上、産業界が石炭火力廃止という変革の意思をもつのなら、それを支援するのは当然のことなのである。しかし、変革は常に事業上の危険を大きくすることであり、危険が大きくなるなかで資金調達を支援することは、金融界として容易なことではない。
発電事業者として、現に稼働している発電所の運転を耐用年数に達するよりも早く放棄すれば、大きな減損を強いられて自己資本が減少するわけで、銀行の立場からすれば、既存の融資の質が劣化するにもかかわらず、発電能力を維持するための新発電所の建設資金を融資しなければならなくなる。この困難な問題を金融の技術によって解くことにこそ、石炭の利用に関する環境問題において、金融が果たすべき社会的責任があるわけだ。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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