「ハマスのテロ」を糾弾するハラリ氏:解決が一層難しくなったパレスチナ問題

パレスチナのガザ地区を2007年以来実効支配しているイスラム過激派テロ組織「ハマス」が7日早朝(現地時間)、数千のロケットをイスラエル領土に向け発射する一方、戦闘員を海路、陸路からイスラエル領土に侵入させ、イスラエル兵士や住民を人質にした出来事はイスラエル国民に大きな衝撃を与えている。

CNNとのインタビューに答えるハラリ氏(CNNの動画からスクリーンショット)

イスラエル人であり「現代の知の巨人」と呼ばれる世界的に有名な歴史学者ユバル・ノア・ハラリ氏(Yuval Noah Harari)はCNNのスター・ジャーナリスト、クリスティアン・アマンプール女史(CNNのチーフ・インタナショナル・アンカー)とのインタビューに応じ、10分余り、ハマスのテロ襲撃問題について語っている。

同氏はハマスのテロを、「そのやり方はイスラム過激派テロ組織『イスラム国』(IS)スタイルだ。イスラエル国民はイスラエル軍の無能さに怒りを感じるだけではなく、ハマスのやり方に大きなショックを受けている。ホロコースト(ユダヤ民族虐殺)以来の大量のユダヤ人が殺されたのだ。ユダヤ人は過去、何度も襲撃されてきたが、今回は全く異なっている。未来への見通しが見えなくなる」という。

そしてハマスについて、「彼らが行っているのは単なる軍関連施設への攻撃ではなく、ユダヤ人コミュニテイーの抹殺だ。子供の前で両親を殺したり、惨たらしい殺害シーンを繰り返し、それを隠すのではなく、ビデオに録るなど心理的戦略(Psychological Warfare)を展開している。ハマスは憎悪を植え付け、紛争がその後の世代に拡散することを狙っている。ハマスはユダヤ人を抹殺するだけではなく、平和へのチャンスをも奪っていく」と述べた。

(著名なユダヤ系ブロガー、ベン・シャピロ氏は「ナチス・ドイツ軍は非人道的な虐殺をしたが、それが外部に漏れないように隠蔽したが、ハマスはそれをあからさまに見せている」と、両者の違いを指摘している)

ハラリ氏はまた、「国家の歴史では、時には加害者であり、時には被害者だ。一方だけということはない。被害者と加害者を同時に体験することもある。この歴史の事実を理解する必要がある。数千キロ離れて紛争を見るならば、正しく判断できるが、紛争の真っ只中にいる場合、正しく判断することは難しい。ハマスは憎悪の種を植えるが、われわれは何時かは紛争当事者同士が和解できることを信じたい。例えば、1940年代、ポーランド、リトアニア、ウクライナは対立を繰り返してきたが、1990年代に入って和解した。ポーランドとリトアニアは今日、ロシア軍の攻撃を受けるウクライナを助け、民主主義の存続のために戦っている」と説明した。

ハマスが今回、イスラエルを襲撃した背景について、「イスラエルの情報機関の問題もあるが、サウジアラビアとイスラエルの外交正常化問題が大きな影響を与えていることは間違いないだろう。ハマスはイスラエルとの平和共存など願っていない。ユダヤ人を完全に抹殺したいのだ。サウジとイスラエルの外交関係はその意味で障害となるから、それを阻むために立ち上がったわけだ。サウジとイスラエル間の外交合意の中には、パレスチナ人にとってプラスの内容があったが、ハマスはそんなことはどうでもいいのだ」と強調した。

同氏はインタビューの最後の部分で、「イスラエルではポピュリストのネタニヤフ首相が長い間、国を分断し、国の重要な機関を弱体化してきた。国民が助けを最も必要としている時に自身のことに腐心していた。これがハマスの奇襲を可能にした原因だ。世界の民主主義国はイスラエルから教訓を読み取るべきだ。国がイスラエルのように分断していたならば、いつかはその代価を払わなければならなくなるのだ」と述べた。

ちなみに、ハラリ氏はレックス・フリードマン氏のポッドキャストでイスラエルの現状について、「問題が国家的、民族的なものだったら、妥協や譲歩は可能だが、信仰や宗教的な対立となれば、妥協が出来なくなる。イスラエルとパレスチナ問題は既に宗教的な対立になってきている。それだけに、解決が一層難しくなってきた」と主張している。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年10月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。