環境問題に限らず、技術革新、事業戦略の転換など、いかなる変革においても、産業界は古いものを廃棄することに伴う損失処理によって資金調達能力を低下させる、そのときに同時に新しいものを創造するための資金調達の必要性に直面する。この困難な問題の解決こそ、金融に求められている機能なのである。
また、格差や差別の解消をはじめとする多くの社会的矛盾が存在するなかで、その解消へ向けた努力を産業界が行おうとするとき、それが直接的な利益に結びつかず、むしろ費用の増加につながる可能性があったとしても、即ち、金融界にも直接的な利益がないとしても、やはり、金融界には、その活動を支援すべき社会的責任がある。
ただし、金融界が優越的な地位を利用することで、産業界における社会問題解決を主導するようなことがあってはならない。金融は、所詮、たかが金融なのである。しかし、されど金融である限り、産業界の自律的な社会問題解決へ向けた取り組みを支援しなければならないわけだ。
人類が全体として合理的であるならば、環境問題をはじめとする社会問題の解決は、人類社会の進むべき方向を示すものであり、未来社会の姿を先取りするものだから、それに対する産業界の努力は経済的に必ず報われるはずであり、それに資金供給する金融界にとっても大きな利益になるはずである。実際、社会の進化に対応して、いずれ滅びるものを早く捨て、いずれ栄えるものに早く乗り換える、その判断の時期を誤らないことこそ産業の成長の要諦なのであり、産業の成長こそ金融の利益なのである。
近時、金融界においては、ESGの名のもとに、環境等の様々な社会問題解決における産業界の経営者の役割と金融との関係が熱心に論じられ、また、国連においても、SDGs、即ち、持続可能な開発目標が掲げられるなかで、人類の課題として、産業と金融の活動を通じた社会問題の解決が叫ばれはじめている。つまり、今まさに、地球における人類の生存について共通の危機感が醸成されつつあるのである。
しかし、そのような危機感の高まりのなかでも、なお、金融は優越的な力を行使してはならない。もしも、金融に優越的な力の行使を認めるのならば、金融は政治的に統制されるべきである。実際、たかが金融が産業界に対して社会問題解決へ向けた統治改革を要求すれば、逆に産業界から金融界の統治改革を求められるのは必定で、金融界に優越的な力がある限り、金融界の統治改革は政治によるほかないからである。故に、金融界は、自主自律性を守るために、たかが金融の地位にとどまるべきなのである。
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森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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