夢を追いかけるには活動資金が必要だ
著者・西野亮廣の執筆意欲は、建前ばかりで本音を隠す私たち大人への憤りが源にあるのではないか。9月27日に評者の選挙区である川崎市麻生区にやって来た著者の語り口からは、現状を変えないと次代を担う若者が潰されてしまうとの危機感が強く滲み出ていた。
会場で購入した本書『夢と金』は、この日に著者が語ったことと内容面では殆ど重なっていた。参加者数名と話すと、同趣旨のことは著者のオンラインサロンで何度も語られているそうだ。それでも、日頃聞いている話をもう一度活字で読みたいと手に取る読者がいるところに、著者が放つ強烈なオーラと求心力が働いている。
神奈川県議会で評者が所属する文教委員会においては、高校生への金融教育が議論の俎上に上がっている。決して株の運用を勧めるような実用的講座ではなく、生徒が目標に至るまでに必要な「経費」を念頭に置きながら主体的に自分の人生を設計してもらうキッカケ作りである。
本書の題名である「夢と金」の金の部分は、著者が強調する日本の教育の欠陥であり、お金の裏付けもなく純粋に夢を追い続けることだけを説く大人の偽善性を鋭く批判している。夢を追い、実現するための原資を稼ぐことの必要性を、タブーなしに議論することこそ、著者が読者に語りかけている核心であると私は理解した。
顧客は「機能」を買い、ファンは「意味」を買う。
著者は「『機能』よりも『意味』を売れ」と説く。商品の品質としての機能が重要であることは言うまでもないが、自分のビジネスを成長させていくためには単に購入する以上の意味がなければ市場では淘汰される。
飲食業であれ、製造業であれ、差別化することが困難な品質向上に極限レベルまで拘るよりも、店主を応援するために足を運びたい、このメーカーじゃなきゃダメ、と言ってもらえるような「顧客のファン化」を目指すことが合理的であると著者は説く。
この点は議員である評者も大いに共感するところで、所属政党の支持率下落に右往左往するのではなく、「所属政党は結果であって、小林だから応援する」というファンを如何に増やしていくかを日々考えている。
昭和55年生まれの評者は著者と同い年であり、お笑い芸人に留まらず絵本作家、経営者と活躍の場を広げる著者の世界観を生で感じたいと思い講演会に参加した。会場には若者から初老の男女まで、中には幼児を連れた夫婦もあちこちで見かけた。私たちが開く政治集会と、この講演会に集う層が明らかに異なることは一目瞭然であった。
様々な利害を調整する議員の特性上、一般論でお茶を濁さざるを得ないこともあるだろう。しかし、ここぞという時には著者のように本音で鋭く主張しなければ、議員の価値はない。
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