若い母親が、赤ん坊を抱けと命令された。母親が赤ん坊を抱えた瞬間、直ちに容赦なく2人とも射殺された
現場にいたNGO職員が証言した。この非情な出来事は、ハマスが音楽祭を楽しんでいた欧米の女性を含む民間人を虐殺した10月7日の攻撃の一部。この攻撃は、キブツで無抵抗の女性、幼児、高齢者を多数射殺した同時発生の事件に加えて、民間人を標的にした凄惨なものだ。
イスラエル人は「米国の9.11」にも匹敵するとして「憎悪の復讐」を誓った。確かにスケールや残虐性のレベルは違うが、ナチスのホロコースト以来、最大の悲劇といえる。
この状況は異常だ。ハマスは自身の虐殺行為をビデオに収めており、イスラエル政府がそれを公表した。一方、イスラエルの兵士たちも非人道的な行為を犯した。今回の攻撃の際、イスラエル特殊部隊がハマスのメンバーを情報収集目的で拷問して殺害、後で裸の死体を10体以上路上に放置したという報道もあった。これらの映像も公になっている。
情報戦の一環と言えばそれまでが、それにしても惨過ぎる。
IS が典型例だが、テロリストはよくやる。通常、戦争の際にも各国は自身の犯罪行為を隠そうする。ナチスは隠蔽に努力した。今回のようにお互いが公然とその行為を公開していることは、この戦争の異常性を示す。
その残虐性はこれまでの次元・レベルを超えた。筆者が大分前に書いたことだが、ハマスの戦闘責任者モハメド・デイフはISの指導者の1人といわれる。モサドと米諜報の暗殺リストの上位だ。世界の知性、ユバル・ハラリも最近「今回のやり方はISのスタイルだ」という。つまり、故意に映像を拡散することにより、世代を超えて憎悪が消えないようにする。人類の敵だ。
イスラエルによるガザなどへの空爆は何十年にもわたって続いており、母親や赤ん坊を含む数え切れないほどの民間人が虐殺された。正当化などできない。だが今回のハマスの攻撃も、同意はできないが、その報復として行われたと理解できる。
しかし、若い母親とその子供を意図的に攻撃することは、一方の無差別な空爆とは少し異なる側面がある。基本的に武器を持たない非戦闘員を殺すことは許されない。主張や信念にかかわらず、この種の行為は許容されない。しかし、非精密な爆弾による巻き添えの被害は避けられない要素がある。
また、イスラエルの空爆の対象に、学校や病院が含まれており、民間人の犠牲が出ることがある。そこにいる民間人を標的にするわけではない。これらの建物の地下部分に全長500キロとも言われる「地下トンネル」や、テロリストの隠れ家や兵器製造工場がある場合も多い。
この紛争では、戦闘とは無関係の無辜の民間人、一般市民が標的とされ、巻き添えではなく故意に虐殺され、女性や子供が誘拐され、監禁され、「人間の盾」として使用されている。ハマスはこれを行う。だがイスラエルは同じようにはできないだろう。
今回のハマスの行動は過剰なものであり、イスラエルの報復を招き、パレスチナ人の支持が失われる。同時に、イスラエルが地上戦やハマス殲滅作戦を実施する場合、無害のパレスチナ人が巻き添えで死傷することになり、このことは反イスラエル感情を高め、ハマス支持を増加させる。この問題の特徴だ。「お互いさま」「どっちもどっち」が、数百年、いや2000年くらいは継続している。双方の言い分も正当化でき、片方が絶対に正しいなどと言えない。
「怪物を根絶やしにする」とイスラエルのネタニヤフは威勢よく言った。甘い。ガザなどにいるのは中間管理職と下っ端の戦闘員ばかり。ほぼ洗脳状態で、イスラエルによる空爆で家族を殺され、さらに一方的な大儀を教え込まれて「命を賭けて死んでもよい、だがその前に相手をできるだけ殺す」と思う若者ばかり。ハマスの指導者層はカタール、トルコなど外国にいる。
さらに、アフガンやイラクでも取材した。テロリスト、活動家、一般市民の一線が引けないことも多い。今回の空爆強化で、家族などを殺されて、これまで中立だったガザ市民がハマスに協力、支援員やメンバーに変身することも多々ある。つまり根絶やしなどは絶対に不可能だ。
ハマスの母体である「ムスリム同胞団」は、もともとはテロや母親や赤ん坊を殺害するようなことは行わない慈善・福祉団体だった。現在もハマスをかなり支援しているカタールや発祥の地といえるエジプトでかなり影響力をもっている。現在も「ハマス」にはその一面が残り、ガザ地区を中心にしたパレスチナ人を支援。感謝されている。これがハマスのガザなどの実効支配につながった要因の一つだ。
筆者はムスリム同胞団の最高指導者であるムスタファ・マシュワール(Mustafa Mashhur)(Arabic: مصطفى مشهور;)(写真)と長時間対談した。副官で後任者のホダイヴィと違って、メデイア取材には原則応じない。特にTVはまずないと言われた。アルジャジーラでもできない。もちろん日本人ジャーナリストでは最初で最後だ。
CIAの取材は難しい。それでも50人くらいは直接対面取材をした。日本人ジャーナリストとしては一番多いだろう。イスラム組織にとっての天敵であるイスラエル諜報の「モサド」はもっと難しい。この「同胞団」も同じくらい難しかった。お互いに命が係っているので当然だろう。
マシュワールはアラブ世界の代表的な人物であり、当然アラブ世界を支持する。ハマスやアラブ急進派の一部とは異なり、イスラエルを完全に否定しているわけではない。彼のスタンスは、ハマスとはかなり距離を置く穏健なファタハに似たものだ。
もちろん、自衛のために行動する部分は理解できる。だが相手の存在を認めなければ、話し合いの余地はない。アラブの多くは違う主張だが、ハマスによる故意で永遠に憎悪を残すような非人道的な行為に加え、交渉を否定する姿勢に絶望する。
マシュワ―ルが言うように、まずはさらなる話合い。お互いに譲歩しないと地獄が続く。間違いない。ハマス指導者はもちろん、イスラエルにも直接聞かせてやりたかった。
ガザへのイスラエルによる地上戦の限定的な作戦が始まった。最終的な目標はハマスの抹殺とガザなどの占領?だが、最優先の目標は約200人の人質の救出と関連情報収集だ。
人道回廊の設置や、人質救出やガザ住民のパレスチナ人への人道的な援助の実現には時間がかかる。米国務長官のブリンケンは奔走している。また、イランやヒズボラの介入による事態の悪化を阻止、抑止力になる米国の空母2隻目が現場近くに到着するのを待ち、イスラエルはバイデンとの直接交渉を経て、地上戦開始を開始する可能性が高い。
予想通り、バイデンが10月18日にイスラエル訪問する。ネタニヤフは自分にも否があることを少し自覚している。求心力を強化する一番の方法がバイデンに来てもらうことだ。一応、地上戦など自衛権行使は原則認めるものの、現時点で最優先にすべき人道的な側面。ガザの人々をできるだけ犠牲にしないことを条件にイスラエル訪問を決めた。
さらにバイデンが実現しようとしていること。ネタニヤフは調子に乗ってガザなどを占領しようとするだろう。それは許せない。明確にバイデンは「完全占領はよくない」と言った。では受け皿は?その答えがパレステイナ自治政府だ。だからアッバスに会って話合う。いくら米国がイスラエルの味方と言っても、パレステイナ国家を認めないのは絶対に許せない。(アッバスとの会談が延期という未確認情報が入った)
当然、過去数百年、この地獄を作り出したことにつながること。米国がやってきたことに責任を感じていることもあるだろうが、ここだけは、バイデンに拍手。
パレスチナ人やハマス側の論理は、イスラエルがやっていることは、完全な国際法違反で、以前もあったが、オスロ合意以降のイスラエルによる不法な入植や占領行為だ。これらの理由で、バイデンはそれまで基本的にイスラエル支持だったが、かなり距離を取るようになっていた。
ネタニヤフの独裁者ぶり、本来は民主主義国家だったイスラエルが、司法の否定、ポピュリズムの結果といえる醜い姿を晒す。ネタニヤフがNYの国連を訪問した時も、ワシントンに招待されなかった。国連でネタ二ヤフが見せたガザなどの地図は、本気でパレステイナ人を追い出して全てイスラエル領土にするような気迫を感じた。米国も含めて世界を敵に回した瞬間だ。バイデンは今回もイスラエルによるガザ完全占領には強く反対する。
これまでバイデンに限らず米国がイスラエルを支持してきた一番大きな理由は何だったか? 筆者は過去40年くらい米国の直接の緩傾斜は影響力がある識者数十人と直接話し 「なぜイスラエルを支持するのか?と聞いた。理由は簡単だ。周りのアラブ国家と違ってイスラエルが「民主主義国家」だからだ。もちろん人類史上最悪といえるホロコーストへの同情、米国や世界に影響を与えるユダヤ人ネットワークの影響や、金融や芸能界など物凄い力を発揮するのもある。大統領選挙への影響もユダヤ系はかなりの力を発揮する。ブリンケンもユダヤ系だ。それらの要素もある。
米国はイスラエルのガザなどへの地上戦を止めることはできないものの、人道的なことを実現するよう最大限の努力をしている。
地上戦は、ハマスなどによる10月7日の無差別攻撃に対するイスラエルの「個別的自衛権」行使だ。これについて、「国際人道法」に違反しない限り、個人にもあるような正当防衛になるため、国際法違反と非難するのは難しい。しかし、実際に始まると、今度はイスラエルに対する国際法違反の指摘が行われる可能性がある。この種の紛争では、正当性もある程度あるが、悲しいことに、お互いに国際法違反を継続し、多くの人々が犠牲になる結果となる。
歴史を振り返ると、1つの節目の「オスロ合意」以前も以降も、お互いの主張に正当性がある。過去を勉強すると、今回のハマスの行動を引き起こしたのは、イスラエルの行為も一因であると言える。だが民間人の虐殺、誘拐、監禁、人間の盾への正当化はあり得ない。
オスロ合意以降、イスラエルの入植活動や占領地の拡大は国際法違反であることが明らかだ。米国は大枠ではイスラエルを支持しており、国連でイスラエルを守ために拒否権を行使しているが、米国内でも若者を中心にいまやイスラエル批判が増えている。
この紛争が長引く場合、その最大の利益者はプーチンと習近平だろう。原油価格が上昇し、ロシアへの経済制裁の効果が薄れる。西側を中心としたウクライナへの関心が低下する。
さらに米国はウクライナとイスラエルの両方に支援を行う必要があり、2つの正面での戦いが難しくなり、対中国への対策が疎かになるため、中国も利益を得る。外交では素人だったオバマ。そもそも誰も頼んでいないし、事実とも違う「世界の警察官」を止めた。その上、国力が衰退、ますます内向きになっている米国に3正面は無理だ。さらにイスラエルの過剰な行動が国際社会から非難を浴び、それを支持する米国への批判も強まる。その結果、中国が利益を得る。米国のマイナスは中国のプラスだ。
また、中国の「一帯一路」イニシアティブに対抗するため、米国はインド、サウジアラビア、イスラエルなどを利用して米国版のプロジェクトを推進する。重要な一部が、かなり話が進んでいたサウジとイスラエルの関係正常化で、仲介するバイデンの選挙対策でプラスにもなったはずだ。しかし、今回のハマスによる攻撃により、この計画は一応頓挫した。自国の経済問題や、世界が「債務の罠」などの目的を知って後退したこともあり、中国の一帯一路は昔ほどの勢いがなくなった。やはり世界はこれまでと違って騙されないとはいうものの、中国の存在感が高まる可能性がここに残る。
そしてプーチンの中国への訪問だ。10月17日プーチンは旧ソ連以外の外遊としては今年初めて北京入りした。本来は国際刑事裁判所(ICC)が逮捕状を発行しているので、プーチンはロシア国外に出れば、逮捕されるべきだが、中国はICCに不参加なので安泰だ。
習近平との会談は18日だが、もちろん、各種相互支援などと共に、ウクライナ戦争への中国のより深い支援が目的で、ガザ情勢など全ての側面で米国批判は明らかだ。本来は仲良くない中国とロシアが、国際政治の常識、いつもの「敵の敵は味方」論で腕を組む。あのどうしようもない北朝鮮ともプーチンは組む。中国でさえも引いている北朝鮮と仲よくなる?言葉を失う。
ここ10年くらい泥沼化している世界の反米化。インドなどグローバル・サウスはまだ流動的な部分はあるが、国内問題も抱えている米国はますます内向き、余裕などない。昔のように力を誇示して、世界の紛争に深い介入などできない。
日本の無知な識者は、軍産複合体が金儲けできるから、米国は世界で戦争を煽っているという。ヒトが死ぬ安全保障の現実を知らない平和ボケの思考だ。金儲けは事実だが、それは結果であって、だからと言って戦争を煽る、やらせるとか、全くあり得ない。アイクの発言を勉強し、米国を深く直接取材しろと言いたい。本当になにも分かっていない。
そもそも、ウクライナも米国は深入りしたくなかった。代理戦争とか米国が戦争を望み、煽っているという無知な日本識者もいたが、思い込みだ。今回のイスラエル・ハマス戦争も同じように深く関わりたくない。
日本は9割以上中東に原油依存している。米国はシェールガス発見以来、中東依存度は1割にも満たない。サウジアラビアとイランの国交回復を中国に許した。昔ならあり得ないが、米国の国力低下の証明である。右傾化、独裁化を強めるイスラエルのネタニヤフの問題もあり、中東には深入りしたくない。だが今回望まない火の粉が降りかかってきた。世界はますます「混沌の時代」に入ったといえる。
最後に、日本について。日本は通常、米国とは一線を引いて、中立的な立場を演じることが多い。イランやハマスとの独自パイプがあるともいう。しかし、日本が独自の立場を利用して、例えばハマスはもちろん、イスラエルとイランに停戦や参戦中止を要求できると考える人がいるが、その思い込みは国際政治の実態を十分に理解していない証拠だ。あり得ない。
原発が稼働している時は中東への原油依存度は7割くらいに減少したが、いま日本の原油は9割以上が中東に依存している。万が一の中東戦争拡大の際には、経済の死活問題だ。石油供給に問題が生じる可能性がある。この地政学的な経済安全保障の問題を考慮するべきだ。
思い出すこととしては、50年くらい前の1970年代の似たような中東戦争の際、アラブ諸国はアラブ石油輸出国機構(OAPEC) を利用、結束してパレスチナを支援した。米国など親イスラエル諸国への原油の輸出を停止した。とばっちりを受けた形の日本。必死の努力で禁輸リストから外してもらった。だが、慌ててイランの石油競売で異常な価格を支払った。
今回のイスラエル・ハマス紛争でも、日本はイランと米国とは違う特別な関係があるという人も日本には多い。だが当時はイランに騙されたように見える部分があった。イランはしたたかだ。いまでも因果関係への理解が難しいが、なぜか日本中で「トイレットペーパーがなくなる」という噂が広がり、異常な消費者心理からくるパニックが発生した。思い出したくない醜態だった。
その時の当事者、サウジアラビアのヤマ二石油相と、筆者は長時間対談を行った。彼は国賓級の待遇で、天皇と拝謁するくらいの大物だ。そこで「石油はあった。あの日本の対応は理解できない」と、彼に失笑された。笑えない現実だ。
アルジェリアでも当時の石油大臣が、長時間対談に応じて、筆者に「よく取材している。当時の事態をよく理解しているね」と声をかけた。アルジェリア石油相のべライド・アブデセイラム(写真)、後の首相だ。
1973年米国務長官キッシンジャー、米国防長官シュレシンジャー、少し前のマクナマラ国防長官とも対談したが、同じような感想だった。日本が慣れない「独自外交」をすると、思い込みで、、、。
信頼できる筋によると、当時の外務省の対応は情報不足。その時の外交文書は「永久封印」された。間違いなく事実だろうが、国民主権を軽視するなと言いたい。
いまはかなり改善されただろうが、日本の情報収集力について懸念がある。今回の戦争でも、既に対イスラエル対策として、アラブ側が結託して石油戦略発動の可能性が増している。サウジも以前と比べてパレステイナに寄り添った言動をした。既にロシアがウクラ情勢に関連してエネルギー戦略を発動している。総合すると世界がエネルギー危機を迎える可能性が高い。
誤った情報だけの場合、国益が大きく損なわれる可能性がある。原油価格は既に上昇しており、正確な情報に基づいた冷静な対応が必要だろう。