イスラエル-ハマス問題、重要な岐路に:最悪のシナリオはイラン本体の参戦

ガザの病院での惨劇が大きなニュースになっていますが、これから数日の間にイスラエルとハマスの問題は重要な岐路に差し掛かります。イスラエルの姿勢次第で外交と世界に与える影響は大きく変わります。まずはその因子を見ていきましょう。

ガザ市の様子 NHKより

  1. イスラエルはガザ地区への地上戦の準備は出来ているとしています。いつでも突撃可能です。
  2. それを受け、バイデン大統領が18日にイスラエル入りし、ネタニヤフ首相と会談します。
  3. バイデン氏は戦争仲裁ではなく、イスラエル支持をしながらも、ガザの一般人の安全確保を強く要請するものと思われます。
  4. またアメリカ兵2000人の派兵準備の指示がアメリカ国防長官よりなされました。私見ですが、イスラエルがガザでの地上戦を行う際の後方支援、例えばヒズボラの動きをけん制し、イスラエル北部を安定化させ、イランをけん制する目的かと見られます。
  5. プーチン大統領が北京入りしました。一帯一路の国際フォーラム出席のためですが、実際には習近平氏との会談が主たる目的と思われます。その際にウクライナ問題と共にイスラエルの件についても突っ込んだ議論がなされるとみられています。

バイデン/ネタニヤフ会談と習近平/プーチン会談が18日の同じころに行われるわけです。

まず、西側は何を目指すのでしょうか?

イスラエルは最大目的としてハマスのせん滅であり、その為にはガザ地区の地下施設や要塞、通路に壊滅状態にすることにあります。一部ではガザ地区のイスラエルによる再占領するのでは、という見方もありますが、それをすると見方によってはロシアによるウクライナ東部の侵攻を正当化してしまう可能性があります。よってそれはシナリオだけでそこまではないというのが個人的見解です。

そもそもガザ地区はオスマン帝国の支配下だったものが、第一次大戦後、英国の統治領に、1948年にはエジプトが、67年の第三次中東戦争でイスラエルが、そして93年のカイロ協定でパレスチナ自治政府下になるというすさまじい歴史が展開された地であります。仮にイスラエルがガザ地区を実効支配するつもりならイランを先頭に中国、ロシアを焚きつけることになります。それこそ世界を巻き込んだ地域戦争になってしまいます。

バイデン氏は今回のイスラエル支援表明は本心とずれていた可能性があります。もともとイランとの関係改善を進める中で不意打ちのような今回の事態で自らの外交の失敗をイスラエル支援という形で方針転換を図り、来年の大統領選につなげるという野望でしょう。イスラエル支援を明白に打ち出さないと弱腰とか軟弱外交と共和党から厳しい糾弾があるわけで、ブリンケン国務長官がイスラエルと周辺国を訪れ、事前調整した際も珍しいほど明確なイスラエル支持の意思を表明しています。

では、中国とロシアです。中国はあまり戦争にはかかわりたくないという姿勢がアリアリでどちらかといえば仲裁型です。ロシアも自国がウクライナと戦っている中でイスラエル問題には直接的には手出しをできません。むしろ、プーチン氏としては逆境だった自分の立場を少しでも改善させ、目線をウクライナ問題からイスラエルに向け、厳しい国際世論をかわそうとするのではないかとみています。

最大のキーはイランで、その動きはあまり伝わってきません。水面下でいくつかのシナリオを立てた上で作戦を練っているものと思われます。今回のイスラエル-ハマス問題で最悪のシナリオはイラン本体が参戦する場合です。その場合、単に地域戦争というレベルではなく、石油供給不安となり、原油が今の2倍の価格に跳ね上がる可能性があります。その場合、世界経済への影響は極めて大きい最悪のケースとなります。

イスラエルの後ろには西側諸国がいる一方で、中国は参戦には乗り気ではなく、ロシアは物理的に余力がないと考えればイラン本体の参戦は考えにくいと思います。対抗するならイランの骨格ともいわれるイスラム革命防衛隊の隠れ蓑を使ったテロ作戦になる気がします。ただ、そうなればなったでアメリカは再びイランとの関係を締め上げるでしょうから原油供給を含めた経済へのインパクトは出てきそうです。

日本の立場は人道支援にとどめるのではないかと思います。岸田首相は明確なイスラエル支援を表明するほど度量も器量もありません。むしろ支援表明のメリットとデメリットを計算した上で本件とやや距離を置くつもりではないかと思います。G7の中で蚊帳の外ともいわれますが、ここは日本の立場を考えても良いと思います。そもそも中東問題をしっかり理解している日本の政治家はあまりいないのですからあまり軽はずみな言動は避けるべきかと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年10月18日の記事より転載させていただきました。