疑い深い人ほど騙されやすい理由

黒坂岳央です。

最近、いろんな営業マンが出している書籍や動画を見て勉強する中で興味深い話があった。それは「疑い深い人ほど実は騙されやすい」という主張を多く見たことである。また、筆者の地元の市役所が出している冊子にも「詐欺被害にあう高齢者が共通しているのは”自分は騙されない”と思っているタイプ」だと注意喚起をしている。

これは国家の統計データなどで見える化できない指数であるため、あくまで個人的体感に過ぎないが筆者もこれと同じ感覚を持っている。詐欺の被害にあってあーだこーだと騒いでいる人は大抵、普段からSNSなどで物事を否定的に見る投稿をしているものである。だが、そういう人ほどコロッと騙される。疑い深いはずなのになぜだろう?

独断と偏見でこの直感と反する理由を考察したい。

maruco/iStock

自己評価の高さで失敗する

件の営業マンの主張によると、新人営業マンが最も敬遠するのが「疑い深いお客」だそうだ。彼らは何を提案してもすべて否定から入る。

「このシステムは本当にカタログ値が出るのですか?大丈夫ですか?」
「本当は売れていないのでは?」
「あなたを信用して本当に大丈夫ですか?100%保証しますか?」

とにかく疑り深く、コミュニケーションコストが高いために営業マンは対応に疲れてしまうそうだ。「本来はそんな部分を疑っても意味がないでしょう」という部分にまでとにかく徹頭徹尾疑い続ける。

だが、ベテラン営業マンが与し易い相手こそ、実はこの手の疑い深いお客なのだという。彼らは提案の常に裏側を考えるので営業マンサイドに都合の悪いことを彼らにあえて否定させて、目論見通り売りたいものを買わせるというテクニックがあるのだという。彼らは自分の否定力に自信を持っているため、一度自分が否定したことはもう疑わない。自分は相手を出し抜いてやったと喜んでいるが、内心笑っているのは実は営業マンの方なのだ。

疑い深い人は「損をしたくない!騙されないぞ!」とガードをガチガチに固めており、そのことが彼らの判断基準から論理的、大局的視野を奪い取って強固な思い込みに自らハマっている。つまり、「自分は騙されないぞ」という自己評価の高さが逆に騙される理由になっているということなのだ。特に情報の非対称性の高いプロダクトの場合は事実の裏取りが難しく、自分が騙されていることに気づくことすらできない。

信じる相手を間違えてはいけない

筆者が記事や動画を出していて時々言われることがある。それは「他の人は誰も信じられなかったけど、あなただけは信じられる。あなたのいうことはすべて信じる」という趣旨の話だ。

もちろん、このように言われて悪い気分はしない。疑い深い人から全幅の信頼を寄せられるのはそれだけ自分に信用があったということである。だが、正直にいってこうした思考は危険だと思っている。もしも筆者が巧妙に相手から信頼を得ることに熟知している人物で、信頼構築の段階からすべてが計算づくという場合、このようなタイプを騙すことは極めて簡単だからだ(自分はそんな愚かで割に合わないことはしないが)。

なぜ他の人は疑うのに特定の人を信じてしまうのか?これはあくまで仮説の域を出ないが、疑い深い人もイチイチコミュニケーションコストが高いので人間関係に疲弊していると考えることができる。彼らの人間関係は「この相手は信用できないが、あの相手は疑う必要がない」と疑う、疑わないリストを持っている。自分なりの判断基準を持っていて、信用に足る相手と交流するというものである。だが、彼らそのリストには合理性、論理的判断基準はなく、あくまで主観的な判断に過ぎない。そのため、人心掌握術に長けた人物にそこをハックされればコロリとやられる。

その逆に騙されにくい人の特徴はこの対局の感覚を持っている。すなわち、主観的な判断ではなく、論理的、合理性に裏打ちされたものだ。たとえば魅力的なオファーを持った相手がアプローチして来た場合、疑い深い人はその相手の「人となり」を見て、信用できるかどうかを考える。だが、論理的な人は「わざわざ営業コストをかけ、顧客にしかメリットのない提案をすることなど利潤追求企業がやるわけがない」という冷静で合理的な判断をする。どれだけいい人を装って、優しく誠実なオーラが出ていても、自分に得のない行動をする人間は存在しない。この真理を抑えているので決して騙されないのだ。

疑い深く、自分は大丈夫と思っている人ほど実はいいカモになってしまう。「自分はしっかりしている」と思っているが、その思考根拠は感情的、衝動的な揺さぶりには極めて脆弱であり、プロにかかれば簡単に籠絡される。「騙されないぞ!」という構える思考こそが足元をすくわれる原因なのだ。

 

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