FLASHのあきれた記事:メディアの騙しテクニックに気を付けろ!

疑義の多い記事がまた、FLASHというメディアから10月25日に配信された。

岸田首相「減税までしてやったのに」国民逆恨みも12月辞任の可能性…萩生田政調会長、木原前官房副長官ら大物議員が“落選危機”』という表題の記事である。

Yahoo!ニュース
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当該記事中、下記の記述に疑問を覚えた。

筆頭は、萩生田政調会長ですよ。2021年の衆院選では、次点候補に約10万票以上の差をつけたのに、今では周囲に「俺は次の選挙で落ちるんだ」と嘆いていると伝えられています

確かに、東京24区で萩生田氏が勝利を収めてきたのは、公明党=創価学会と、陰で統一教会による徹底的な応援があったおかげです。しかし統一教会との深い関係が発覚したため、創価学会は「裏切者だ」とおかんむり今から統一教会に助けを頼むわけにもいかず、本人が言うとおり、当選に黄信号が灯ったといえるでしょう。

(同記事より引用。記事では「政治ジャーナリスト野上忠興氏」の発言として記述されている。太字は引用者)

Aleksei Morozov/iStock

6つの疑問

特におかしいと感じた「萩生田政調会長に関する記述」について、疑問点を整理すると次の6点である。

  • 「俺は次の選挙で落ちるんだ」と嘆いている
  • (勝利は)陰で統一教会による徹底的な応援があったおかげ
  • 統一教会との深い関係が発覚した
  • 創価学会は「裏切者だ」とおかんむり
  • 今から統一教会に助けを頼むわけにもいかず
  • 当選に黄信号が灯ったといえる

上記についてなぜ疑問なのかを説明すると次の通りとなる。

【疑問点1】「俺は次の選挙で落ちるんだ」と嘆いている

公明党との選挙協力に暗雲が漂っていた5月頃にも、様々なメディアで自民党各議員の当落について”分析”されていた。その際の得票数の推定では、仮に公明党との共闘体制がとれなかったとしてその票数を差し引いても、萩生田政調会長は余裕の当選という結果が出ていた。従ってこの“嘆き”はあり得ない。仮に同趣旨の言葉を発していたとしても、それは「嘆き」ではなく「諧謔」か「へりくだり」の類であろう。

【疑問点2】(勝利は)統一教会による応援があったおかげ

旧統一教会の信者数はそれほど大きくない。従って仮に応援があったとしても当選を「応援があったおかげ」とまで言うのは過大評価である。また報じられていたような「選挙活動における大々的な電話掛け」のような直接応援の依頼もしておらず、選挙の大勢に影響を与えるような内容ではない。

【疑問点3】統一教会との深い関係が発覚した

旧統一教会の関連団体と縁があったのは事実だが、積極的な縁ではなく、有権者の中の一部として、関係者(団体)と縁があったというのが実態である。関係性を認識した後は即座に適切な処置をとっている。その程度の繋がりなので「旧統一教会との深い関係」という形容は妥当ではない。これも昨年夏のメディアキャンペーンによる誤った印象付けでしかなく、事実からかけ離れた印象操作情報である。

【疑問点4】創価学会は「裏切者だ」とおかんむり

昨年夏のメディアキャンペーン時点における事実関係は不明であるが、少なくとも現時点においては選挙における共闘体制は確認できている。仮の話として一時的に溝ができていたとしても、現時点で「『裏切者だ』とおかんむり」とまで強く表現するのは陳腐(古い)であり、言い過ぎと考える。

【疑問点5】今から統一教会に助けを頼むわけにもいかず

「今から」も何も、もともと当落を左右するような存在でもなく「助けを頼む」関係でもない。従ってそもそも「助けを頼む訳にもいかず」というような状況にはない。

【疑問点6】当選に黄信号が灯ったといえる

既述の通り仮に公明党の選挙協力がゼロになったとしても、現時点で当選は揺るぎないので、「黄信号が灯った」とは言えない。誤った印象操作の上に浮かび上がった幻の“苦境”なのでこの記述は全く妥当ではない。

その他の疑問

萩生田政調会長に関する話の他にもいくつもの疑問があるが、主なものを二つ挙げると次の通りである。

【その他疑問点1】
麻生太郎副総裁の「創価学会はガン」発言などもあり

これは「頑(がん)として…」という麻生副総裁の言葉を事実とは違う形で引用した悪質な誤報だったはずである。それをあたかもそう発言したかのように改めて伝えるのは質が悪い。

【その他疑問点2】
9月に自民党がおこなった情勢調査は「自民41減」「公明10減」という結果。岸田首相もこの結果を受け「なんでこんなに負けるんだ」と愕然としたそうです。

当該“調査”とされる情報には、立憲民主党や共産党が大幅に議席数を伸ばす結果も付帯していたがそれは現実離れしている。ただしこの点について筆者にはそれを反証するような情報もないので、この疑問は筆者の主観に過ぎない。

むすび

もともと「FLASH」という媒体は分類するならば「ゴシップメディア」である。そのため記事自体の信憑性は高くない。これまでも日常的に怪しい情報を発信している。

しかし現実社会では、2次・3次と伝言ゲーム的に劣化コピーされて行くうちに、デマを根拠とした誤情報が人々の頭の中でいつしか“事実”として刻まれて行くことがある(拙記事『松川るい議員研修「大使館が家族の面倒を見た」証言はデマだ』参照)。

従って、創作話だからと放置していると、時に無意味な政局にまで発展する危険性もあるので読者は踊らされないよう注意が必要である。

「信憑性の低いデマや創作話」も累次の引用が成されるうちに、その責任の所在があいまいになって行く。すると比較的信頼性の高いはずのメディア(新聞やテレビ)でも取り上げられて“既成事実”化して行く。報道の自由に付帯するはずの責任は一体どこに消えてゆくのであろうか。

この悪しきサイクルが政局の風を吹かせ、現実が動いて行く現象はこれまで数多く観測されてきた。最近では元総理暗殺に端を発した旧統一教会への解散命令請求などがそれである。失ったものの大きさは、ある程度時間が経たないとわからないだろう。

何であれ、面白がってデマ記事を持て囃していると、それは結局国民自身が大きな代償を払うことになる。しかし個々人が良識を備え、出鱈目な情報に躍らない努力にも限界がある。

自戒を込めてこの状況を省みるならば、我々は『兵法三十六計』の第七計「無中生有」(「無中に有を生ず」無いものを有ると見せかける計略)に自ら陥っている。実に愚かなことである。