欧州連合(EU)首脳会談は26日、ブリュッセルでパレスチナ自治区のガザ情勢を協議し、人道状況が悪化している同地区への安全な援助物資輸送のための停戦と保護された回廊を求め、紛争双方に一時停戦を要求する首脳宣言を採択した。
同宣言では、「ハマスとイスラエルの間の紛争において、われわれは援助物資を届けるために継続的、迅速、安全かつ妨げられないアクセスを求める」とし、必要な措置として「人道目的の回廊」と「休戦」を要求している。そのうえで「EUは地域のパートナーと緊密に連携して民間人を保護し、支援を提供し、食料、水、医療、燃料、避難所へのアクセスを促進する。この援助がテロ組織によって悪用されないようにしなければならない」と明記している。
首脳宣言では、「停戦」ではなく、「休憩」(Breaks)という言葉が使われている。そして「休戦」は複数で表されている。すなわち、通常の「停戦」ではなく、必要に応じて休戦するという意味合いが含まれる。オーストリア国営放送(ORF)のブリュッセル特派員は「FEUerpausen(独語)です。単数のPauseではなく、Pausenです」とわざわざ説明していた。
ガザ紛争の停戦問題では加盟国の間で意見が分かれていた。スペイン、スロベニア、アイルランドなどは、人道的即時停戦を求めるアントニオ・グテーレス国連事務総長の呼びかけを支持したが、ドイツ、オーストリア、チェコなどは「停戦はハマスにとってプラスになるだけだ」として停戦には反対してきた。
ガザ情勢でEUが共通の声明を採択できなければ対外的にもマズいということから、27カ国の首脳陣は採択できる文書の作成に乗り出した。「人道的即停戦支持派」と「停戦反対派」との妥協点を模索する外交が舞台裏で展開したわけだ。
国連児童基金(ユニセフ)が前日、「ガザ地区ではイスラエル軍などの空爆で2360人の子供たちが犠牲となった」と明らかにしたが、ハマス撲滅を目指すイスラエル側の攻撃でパレスチナ人が多くの犠牲となっている。そのうえ、食糧、電気、水などの供給が途絶え、病院では麻酔なしで手術しなければならない、といった状況が報じられている。
そこでスペイン(EU2023年下半期議長国)のサンチェス首相は、「人道的一時停戦」を主張し、人質の解放、紛争の外交的解決を目指し、「援助を提供するための人道回廊の緊急開設」を求めるグテーレス国連事務総長を支持する立場を明らかにしたわけだ。
一方、「停戦反対派」は、「ハマスはイスラエルに侵攻し、1300人のユダヤ人を虐殺し、200人以上の人質を拉致した。そのうえ、ハマスは依然、イスラエルに向かってロケットを発射して、イスラエル国民を襲撃している。停戦はハマスを有利にするだけだ」と指摘し、ハマスの壊滅に乗り出すイスラエル側の対応を支持している。
例えば、オーストリアのネハンマー首相は、ハマスに対する「断固とした行動」を呼びかけ、停戦に反対を表明し、「停戦などのあらゆる幻想はハマスに力を与えるだけだ。ハマスとの戦いには一切の妥協があってはならない」と強調している。
ショルツ独首相は、「ハマスによる恐ろしいテロから自国を守るイスラエルを支持していることを明確にすべきだ。イスラエルは人道的な原則を備えた民主国家だ。イスラエル軍が国際法の規則を遵守していると確信している」と述べている。
舞台裏の交渉では、前者は「即時停戦に代わって人道的回廊の設置などのために一時的停戦」で歩み寄る。後者は人道的な理由による停戦は必要という点で異議を唱えない。そして最終的には、声明の中で「人道回廊」や「休憩」の言葉は複数で書く(humanitarian corridors” and “breaks”)。これは妥協の産物だ。EUがイスラエルに対しハマスとの戦闘を即時停止するように求めていないことを明確にする狙いがあるわけだ。
EUが採択したガザ情勢の首脳宣言文はハマスやイスラエル側に影響を与えるものではない。ただ、EU27カ国がガザ情勢で共通のスタンスを有していることを対外的に示したことになる。ちなみに、イスラエル側はブリュッセルの採択された文書に対してこれまで何のコメントも発表していない。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2023年10月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。