東北北部の混浴温泉:女性のための入浴体験記

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ちょっと仕事をオフにして、一度訪れてみたかった東北北部三県(青森・秋田・岩手)の温泉を巡るドライブ旅行に出かけました。美しく壮大な自然の紅葉を駆け抜ける愛車の中には、終始最高の硫黄臭が充満し(笑)、忘れがたい旅となりました。

東北北部のいくつかの天然温泉では、現在でも混浴の風習がしっかりと残されています[文献]。混浴というと、女性にはなかなかハードルが高いという印象を持ちますが、多くの場合、しっかりガードして利用することが可能です。

このエントリーでは、『アゴラ』の女性読者の利益のため、混浴温泉に何の知識もなかったド素人の私が東北北部三県で体験した混浴温泉入浴の実際について紹介したいと思います。ちなみに、今回取り上げる混浴温泉は、いずれも日帰りの貰い湯が可能である有名な源泉かけ流し温泉という共通点を持ちます。以下、順に紹介していきます。

不老ふ死温泉(青森県)

含鉄-ナトリウム-塩化物強塩泉 [website]

露天風呂

世界遺産白神山地の西方に位置する黄金崎という海岸にポツリと存在する不老ふ死温泉では、まさに日本海と一体化した正真正銘のインフィニティを愉しむことができます。

浴槽の目前にテラス状に拡がる黒っぽい岩石は、おそらく安山岩質の凝灰角礫岩であり、力強い波に打たれる風景は、東映映画のオープニングを彷彿させます。西海岸に面しているため、水平線に沈むサンセットをお湯に浸かりながら愉しむことができます(但し、16時以降の利用は宿泊者のみです)。

海岸に向かって、右側が女性専用露天風呂、左側が混浴露天風呂です(記事冒頭の写真を参照)。男性専用露天風呂はありません。脱衣所はそれぞれの浴場の入り口付近にあります。女性専用露天風呂でも十分にインフィニティを味わえますが、より視界が広く開放感があるのは混浴露天風呂の方です。

混浴露天風呂

嬉しいことに、不老ふ死温泉では、女性がプライヴェートな部分をしっかりと隠すことができる湯浴み(ゆあみ)着をレンタルしてくれます。これを着れば、混浴露天風呂も安心して利用できます。なお、鉄分が酸化した茶褐色の濁り湯なので、お湯に浸かっている間は湯浴みを脱いでしまうという離れ業も可能です(笑)

ちなみに、混浴風呂では、大前提として、異性の身体に目を向けないのがマナーとされています。目の前に拡がる素晴らしい景色を終始遠い目で眺めていましょう。

恐山温泉(青森県)

酸性・含硫黄-ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 [website]

恐山霊場

恐山温泉は、硫黄臭が立ち込める恐山霊場の敷地内にある内風呂の温泉であり、参拝者は、手拭とタオルを持参の上、無料で利用することができます。東北の温泉らしい湯小屋内の風情ある浴槽に満たされた強酸性泉(pH=2.34)に数分だけ浸かるというのが適正な利用方法のようです。

女性専用内風呂

4つの湯小屋は、混浴・男湯・2つの女湯に分かれています。混浴風呂の脱衣所は男女共有であり、濁り湯の透明度も比較的高いので、女性が利用するハードルはかなり高いと言えます。もし利用するのであれば、腰をくねらす作戦など高難度の技が必要です(笑)。

ただし、混浴も女湯も基本的に建物・浴槽・泉質のスペックがほぼ同様と考えられるので、わざわざ混浴を利用する必要性はないように思われます。少なくとも私は女湯のみ利用しました。

酸ヶ湯温泉(青森県)

酸性・含硫黄-ナトリウム-硫酸塩泉(硫化水素型) [website]

酸ヶ湯温泉まで延々と紅葉を愉しめる八甲田山中

豪雪地帯として知られる八甲田山中に位置する酸ヶ湯温泉は、総ヒバ造りの大きな浴槽が4つある「千人風呂」と呼ばれる混浴内風呂で有名です。やや暗めの浴室に立ち込める湯けむりと乳白色の濁り湯がレトロな温泉情緒を掻き立ててくれます。

特筆すべきことは、この温泉は、源泉からお湯を引っ張って来ているのではなく、浴槽の下部からお湯が湧出する全国でも希少な「足元湧出温泉」であることです。地表湧出時に発生する化学反応を全く受けていない大地の恵みを直接受け取ることができるのです。

混浴内風呂「千人風呂」(酸ヶ湯温泉公式siteから引用)

千人風呂の泉質は、pH=1.76の「熱湯(ねつゆ)」をはじめとしていずれも強酸性です。4つの浴槽のうち、女性が利用しやすいのはpH=2.02の「四分六分(しぶろくぶ)の湯」です。この浴槽は衝立(写真右側中央)で隠されている女湯エリアまで続いているため(写真右奥参照)、男性の目に触れることなく入浴できます。ただし、この衝立の裏側にある女湯エリアはとても狭いのが難点です。

日本文化が育んだ世界に類を見ない素晴らしい温泉風情を愉しむにあたっては、濁り湯に肌を隠しながら広い混浴エリアにアクセスすることをお勧めします。実際、私はそうしました。多くの女性は、衝立の内側を利用していましたが、混浴エリアに行っても全然大丈夫です。お湯は完全に不透明で、失うものは何もなく、勇気もまったく必要ありません(笑)

なお、「四分六分の湯」以外の浴槽を利用するには濁り湯の外に一旦出なければならないので、それなりの勇気と覚悟が必要ですが、売店で売っている湯浴みを利用すれば100%安心です。ただ、私が見た限り、湯浴みを使っている人は皆無でした。ちなみに私は「四分六分の湯」を生まれたままの姿で満喫した後、他の浴槽に移動することなく、大人しく引き揚げました(笑)

藤七温泉・彩雲荘(岩手県)

純硫黄温泉(硫化水素型) [website]

八幡平の大自然

八幡平の頂上に付近に位置して超大自然に囲まれている藤七温泉は、乳白色のドロドロとしたpH=3.4の濁り湯が自噴する超ワイルドな足元湧出温泉です。すべてに強烈な印象を受けました。

メインエリアには、男女別の内風呂からアクセスする5つ混浴露天風呂と1つの女性専用露天風呂があります。風呂の底は、整地されてなくデコボコしています。温泉の湧出箇所のお湯はぼちぼち熱く感じますが、湧出箇所を少しずれれば適度にぬるいので、いつまでも長く浸かっていることができます。風呂の底に溜まっている栄養分満点の泥をすくって泥パックすることも可能です。身体に着いた硫黄臭は、幸か不幸か、本当に長持ちしてくれます(笑)

混浴露天風呂(藤七温泉・彩雲荘公式siteから引用)

混浴露天風呂の利用にあたって、藤七温泉では湯浴みの使用やバスタオルを巻いた入浴が許されています(湯浴みもバスタオルも売店で購入可)。但し、バスタオルを綺麗に巻くのは結構難しく、しかも基本的に超ミニのワンピースなのでお勧めしません。私は湯浴みを着用して浴槽までアプローチしました。濁り湯に入ってしまえばこっちのもの、生まれたままの姿になって混浴風呂を愉しみました(笑)。今回訪れた混浴風呂の中では、最も女性の入浴者が多かったです。

なお、女性専用露天風呂にアクセスするには、混浴露天風呂の前を歩いてアプローチすることが必要になるので、たとえ混浴を利用しなくても、女性は湯浴みかバスタオルを着用するのが身のためです。ちなみに、地元のおばあさんとか、あっけらかんな女性とかは、手拭で前のみ隠して堂々と歩いていました。流石です(笑)

玉川温泉(秋田県)

酸性・含二酸化炭素・鉄(Ⅱ)‐塩化物泉 [website]

玉川温泉源泉付近

八幡平の西方に位置し、日本一の湧出量(1か所から9000リットル/分)と日本一の強酸性(pH-1.2)を誇る無色透明の温泉であり、湯治目的で訪れる人が主流です。ブクブクと湧き上がるド迫力の源泉の周辺は、歩いて回遊できるようになっています。地熱が高いので、ござ(売店で購入可)を敷いて天然の岩盤浴を行うこともできます。回遊路沿いには、混浴露天風呂がありましたが、さすがに誰も利用していませんでした。

この温泉で圧巻なのは、源泉100%・源泉50%・ぬる湯・あつ湯など、多様なスペックの浴槽で構成されている内風呂の男女別大浴場です。

男女別内風呂(玉川温泉公式siteから引用)

やはり、pH=1.2の源泉100%の湯はかなり刺激的で、僅かに擦り傷を負っていた箇所がぼちぼち痛く感じました。入浴後は、皮膚を守るためにかけ湯が必要です。強酸性泉とはどんなものなのか、一度体験する価値はあると思います。素晴らしい温泉です。

乳頭温泉郷・鶴の湯(秋田県)

含硫黄・ナトリウム・カルシウム塩化物・炭酸水素泉 [website]

鶴の湯の宿泊棟

玉川温泉の南方、奥深い長いダート道の先にある「有名な秘湯(笑)」です。風情溢れるひなびた日本建築が並ぶ鶴の湯は、宿泊予約が困難な超人気の宿です。この温泉宿のメインと言える混浴露天風呂は、pH=6.6の乳白色の濁り湯が自噴する足元湧出温泉であり、底には砂利が轢かれています。

混浴露天風呂(乳頭温泉組合公式siteから引用)

この混浴露天風呂では湯浴み・バスタオルの利用が禁止されています。女性が混浴露天風呂へアクセスするにあたっては、酸ヶ湯温泉同様、濁り湯に浸かって身体を隠しながらアプローチする通路があります。

女性専用露天風呂から混浴露天風呂に通じる木戸を開けると、大きな岩があり、アプローチの通路まで1mくらいの距離があります。基本的に女性はこの岩に隠れて前方の様子を確認し、手拭で前を隠しながらチャポンと通路の濁り湯に浸ります。ひとたび濁り湯に浸かってしまえば、アトはこっちのものです(笑)。

酸ヶ湯温泉の混浴風呂と比較すると、露天風呂で明るく、湯気も立ち込めていませんが、乳白色の濁り湯が体を完全に隠してくれるため、行き帰りに木戸周辺のケアさえバッチリ行えば、完全にゼロリスクです。湯温はそれほど熱くなく、ゆっくりと温泉を愉しむことができます。素晴らしい秘湯です。

花巻温泉郷・鉛温泉・藤三旅館(岩手県)

単純温泉・アルカリ性単純高温泉 [website]

藤三旅館

小説家の宮沢賢治氏も愛したとされる風情溢れる佇まいの旅館です。私は、湯治に来る人たちが利用する、とってもレトロな部屋に泊まりました。大衆的でありながらも同時に気品も持ちあわせていて、無性に文庫本を読みたくなりました。

内湯の混浴風呂である「白猿の湯」は、無色透明の足元湧出温泉であり、シャワーも含めて100%源泉かけ流しとのことです。浴槽内のお湯の高さが125cmあるため、立って入浴します。

混浴内風呂「白猿の湯」(藤三旅館公式siteから引用)

このお風呂の造りでビックリするのは、廊下から風呂の入り口の戸を開けると、そこは脱衣所ではなく、既に浴室であることです。入口の目の前に下方に降りて行く石段があり、その石段を降り切ったところに脱衣所と浴槽があるのです。

加えて、湯浴みやタオルの使用は禁止です。宿の方がおっしゃるには、湯浴み・タオルはレジオネラ属菌が繁殖する可能性があるため、強酸性泉のような菌を撃退する湯でない限り、衛生管理上の目的で着用できないとのことでした。

女性にとってハードルが高すぎる「白猿の湯」ですが、心配は御無用です。「白猿の湯」は、時間帯によって1日に3回も女性専用になるので、その時間帯に利用すれば、安心して愉しむことができます。ちなみに、この宿には川の清流を存分に愉しむことができる男女別の露天風呂もあり、それだけでも訪れる価値があると思います。

混浴温泉に対する感想

以上、東北北部の混浴温泉への入浴体験を紹介しました。混浴温泉への入浴は、当初に思っていたほどハードルは高くありませんでした。少なくとも今回訪れた混浴温泉については、いずれも安心して入浴できました。何よりも短期間にいくつもの魅力的な温泉、特に稀少な足元湧出温泉に入浴できたことは貴重な経験となりました。

今回、混浴温泉を利用してみて確信したことは、混浴温泉は、けっして混浴自体が目的ではなく、貴重な温泉資源を男女の垣根を越えてシェアすることが目的であるということです。この分かち合う文化が現在も継承されていることは素晴らしいことであると考えます。

環境省は、古くから守られてきた湯治・混浴文化を将来に渡って守っていくことを目指して[10年後の混浴プロジェクト]という事業を展開しています。混浴の正の側面である「混浴が残ってきた理由」と混浴の負の側面である「混浴が抱える課題」について次のような考察を行っています。

混浴が残ってきた理由

  1. 自噴している温泉をそのまま利用
  2. 有毒な硫化水素の滞留により仕切不可
  3. 湯治における交流の象徴
  4. 観光資源としてのシンボリックな浴槽

混浴が抱える課題

  1. 裸体をさらすことへの抵抗
  2. 異性の性的な視線
  3. 異性の裸体に対する嫌悪
  4. 女性用風呂の混雑(混浴風呂回避による)

これらのいずれも今回の旅でいちいち実感したことです。「混浴が残ってきた理由」は今後も消えることはないものと考えます。混浴は将来も残ると思います。

一方、「混浴が抱える課題」を解決するにあたっては、男女ともに混浴中に異性に裸体をさらさないでも済む工夫を考案することに尽きると考えます。

このことは、日本文化の保護のため日本人に課せられたちょっぴり重大な問題かと思います(笑)