パブリックマインドと経営

ビジネスセンスはゼロ

僕らは、元々お金のことを全く考えなくてよい役所で、この国のあらゆる方がお客さん、という世界で仕事をしてきたので、パブリックマインドしか持ち合わせておらず、ビジネスセンスはゼロというところからスタートしています。

起業から、4年近く経ちますが、その間必死にクライアントさんのビジネスの世界を理解し、自分たちのビジネスセンスも磨いていく日々でした。

これは、今の立場で生きていくために、つまり自分たちの生存のために必要なことでした。

最近は、大分クライアントさんのビジネスの考えも理解できるようになり、また自分たちのビジネスの構図も分かるようになってきました。

Jirapong Manustrong/iStock

ビジネス vs. 公共性

最近、1年くらい継続してご支援しているあるクライアントさんのチームと、初めて対面でお会いしてゆっくり食事をご一緒しながら色々な話をする機会をいただきました(注)。

(注)相談・商談→契約→デリバリーと、一貫してオンラインのやり取りで、プロジェクトの期間を通じて対面で会わない、というケースは珍しくありません。また、対面で会う機会のあるクライアントさんもいますが、その場合も通常はほとんどオンラインです。

色々な話をする中で、クライアントさんに言われて、ハッとしたことがありました。

私たちがやろうとしていることが、社会に受け入れられるのか、そこにいつも悩んでいる。社内にないパブリックマインドを強く持っている千正組さんにそこをちゃんと見極めて、道筋を一緒に考えてほしい。自分たちにないパブリックマインドを持って来てくださるなら、いくらでも一緒にやりたい。

というようなお話です。

また、色々な活動をご一緒している別のシンクタンクの方からは、

千正組さんがやっているようなことをやる会社はあるが、政策をプロセス含めて深く理解していて、パブリックマインドを持っているのは千正組さんしかないから、活動を増やしてほしい。

というようなお言葉もいただきました。

自分たちは、政策そのものと政策のプロセスに対する知見が深いという能力の面で独自性があって、お仕事がいただけているのだと思っていました。

パブリックマインドについては当たり前に染みつき過ぎています。

「民間では・・・」
「もう官僚じゃないのだから・・・」
「役所と企業は違う・・・」
「効率性とは・・・」
「生産性とは・・・」
「事業性とは・・・」

色々なことを言われたというか、ご指導をいただいたこともあります。

放っておくと、自分たちはパブリックマインドに寄っていってしまいます。お金より社会的インパクトの方にすぐ目が行ってしまいます。それだと生きていけないから、ビジネスセンスを獲得してパブリックマインドを抑えないといけないという感覚です。

パブリックマインドこそ市場価値

しかし、クライアントの方の言葉で、気づかせていただきました。

パブリックマインドを強く持っていること自体が独自性で、そこにこそ市場価値があるということに。

政策について詳しいとか、顧客のニーズを理解してデリバリーを上手にやるとか、そういう技術的なことはもちろん大事なのですが、より本質的な価値は「パブリックマインドを持っている」ということのようです(注)。

(注)確かに、政策提案や行政との連携プロジェクトのサポートが、今のメインの事業になってはいますが、それ以外の特技もあって、事業展開としてはもう少し広がりつつあります。

パブリックマインドを持って、誰かに価値を提供するということは、世のため人のためだから無償でやれということではなくて、そこに価値があってお金を払ってくれる人がいる限り、わが社もパブリックマインドと事業性を両立できるわけです。(全体としては後述のとおりお金にならなくてもやることが結構あります)

これまで無自覚でしたが、パブリックマインドがあること自体が本当の独自の価値だとすれば、ここをぶらさずに社会に貢献するとともに、活動を拡大していくべきなんだと思います。活動を拡大していけば、自ずとビジネスも拡大していきます。

限られた自分たちのリソースを使う判断の物差しは、単年度の売上や利益の最大化などではなく、社会への提供価値の最大化という感覚を持っています。

テレビ出演と経営判断

今週、久しぶりに地上波のテレビ朝日「羽鳥慎一モーニングショー」という番組に出演しました。社会保険料についての解説役です。

こういう依頼が一番経営判断として悩みます。

正直、この依頼を受けるかどうかは、最初悩みました。

テレビ出演は、事前の準備も含めて、数日間深夜までものすごく工数を取られます。

しかも今回のテーマは僕が慣れている「ブラック霞が関問題」とは違います。「ブラック霞が関問題」は、何度もいろんなところでしゃべっていて慣れています。また、すべての人が当事者意識を持っているわけでもないテーマです。つまり、視聴者すべてが強い意見を持つようなテーマではない。

これに対して、「社会保険料」は、全員が払っていたり、給付を受けたりしているので、全員にとって身近なものです。強い意見をそれぞれの立場の方が持っています。そして、社会保険自体がかなりマニアックで難しいテーマでもあります。

つまり、テレビで解説するに当たっては、とても難易度の高いテーマです。正直「うまくできるかなあ」とも悩みました。

これまでのテレビ出演の中でも、最も工数をとられることは依頼の時点で容易に想像がつきました。その一方で、報酬はボランティアに近いものです。

ビジネス的に言えば、少なくとも短期的な観点で言えば、最も効率の悪い仕事です。そして、今、会社の仕事と大学の授業で、かなり忙しいです。

しかし、この国の人が安心して暮らせる社会を、どう作り続けていけるか、というのは官僚時代のミッションですし、千正組が今も持ち続けいている自分たちのミッションのど真ん中です。

そして、専門家相手ではなく、テレビの視聴者という一般の方に、分かりやすく伝えるということは、社会保障という制度が役割を果たし続けるための根幹です。

社会保障について僕より詳しい超プロは、日本にたくさんいます。

それなのに、僕に出演依頼が来たということは、この人なら難しい社会保障を、視聴者に分かりやすく伝えてくれるだろうと、番組サイドが思ってくれたということだろうと思います。

僕自身も、超プロともちゃんと話ができるプロであり、かつ、プロでない人たちに分かりやすく伝えられる、そんな存在になりたいと、官僚時代からずっと思って活動してきました。

なので、そういう場を与えられた時に、大変だからとか、儲からないからとかいう理由で、逃げるわけにはいきませんでした。

番組から出演のお話をいただいてから、当日まで、本当に大変でした。改めて、調べたり確認することもありますし、超プロの皆さんにも色々聞きました(それをそのまましゃべるわけではないのですが、間違ったことを言ってしまわないように)。

今回の番組出演からは、ものすごい学びがありましたが、それはまた別の機会に書きたいと思います。

これからもパブリックマインドを持って、株式会社千正組の舵取りをしていきたいと思います。

引き続き、お付き合いいただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

お読みいただき、ありがとうございました。

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編集部より:この記事は元厚生労働省、千正康裕氏(株式会社千正組代表取締役)のnote 2023年10

月29日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。