妄想ともいうべき世界市民社会の理想

人類の歴史の一つの側面は経済発展の歴史であり、ある経済の発展段階は、それに適合した政治的支配の構造をもつため、次の発展段階への断絶的飛躍に際しては、旧段階に適合した支配構造は必ず新段階を担う勢力によって暴力的に覆されねばならなくなる。故に、人類の歴史は暴力による政治的支配構造の転換の歴史になるのである。

そして、その暴力は、ついに国民国家を成立させ、ついに自らの暴力を否定して、国内においては理性の支配を実現したが、逆に、戦争という国家間の暴力の行使を正当化させるなど、国家間の対立は常に不合理な帰結を生み出し続けているのである。

123RF

そこで、次なる経済の発展段階として、国民経済の枠が崩壊した先に真のグローバル経済が成立することを予見するのならば、国民経済を前提とした国民国家もまた崩壊して一つの世界市民社会が成立し、そこに全ての人類に等しく遍く備わる理性による支配が実現することをも予見しなければならない。人類は、歴史上初めて暴力によらずに理性によって政治的支配構造の転覆を実現し、叡智の進展の一つの極致を達成するのであろう。

地球上の人間の生活、それが作り出す人の交流、その結果生じる文化的諸現象と経済活動、それら全ての分野におけるグローバル化の進展は、国民国家の枠を徐々に侵食していって、最終的に一つの世界市民社会を出現させ、暴力を廃絶して理性の支配を実現し、国民国家体制のもとで解き得なかった社会的問題を解消させる、その日が遠かろうとも、人類に等しく遍く理性が備わる以上、その日は必ずくると信じるほかない。

情報技術の進化によって、SNSなどの情報基盤を通じて地球上の人間が交流でき、商品や情報を交換できるようになったことは、これまでの人類の歴史を画する全く新しい社会変革のあり方を予想させるものとして、決定的に重要である。しかし、より重要なことは、これらの情報基盤は全て企業の経済活動によって創造されたものであり、それらの企業によって所有されていることである。

そして、現在の支配勢力である国民国家側は、こうした企業群が大きな力を得つつあることに対して、そこに自らの存立基盤を揺るがし得る可能性をみるからこそ、警戒心を募らせているわけで、国民国家の象徴である通貨について、情報基盤上で国籍をもたない新通貨を流通させようとする企業の動きを封じることは、その典型的な反応とみることができるであろう。

森本 紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
HC公式ウェブサイト:fromHC
twitter:nmorimoto_HC
facebook:森本 紀行