アメリカの金融政策はなぜしっくりこないのか?

1962年から今日までの60年強のアメリカの10年物国債の利回りのチャートと政策金利のチャートを改めて眺めています。以前から気になっていたのですがなるほど、やっぱり、と思うことがあります。それは政策金利の上昇期に高い利回りの状態が長期に渡ってホールドされたことはほとんどない、という事実です。敢えて言うなら2006年から07年の約1年間ほど高止まりしたぐらいです。

連邦準備制度ビル Wikipediaより

ご記憶にある方もいるかもしれませんが、アメリカの住宅バブルは2006年夏ごろがピークでその後、ズルズルと下がり始めます。高金利がボディブローのように利いたこともあり、リーマンショックが引き起こされました。政策金利はその動きを先取りしており、リーマンショックの1年以上前の07年夏をピークにどんどん下落し、リーマンショックが起きた08年9月には既にピークから半分以下に下がっているのです。ある意味、この急落は一つの予告だったのかもしれません。10年物ボンドも同様にリーマンショックの半年ぐらい前から下落傾向は鮮明になっていました。

現在の政策金利は06-07年の住宅バブルの頃とほぼ同じ5%超の水準です。過去の流れから見ればアメリカの金利はほぼピークと見るのが正しいとは思います。

これだけで片づけるならばアメリカの景気はサイクルを廻っているだけで06年から17年たった今、同じところに戻ってきたのだ、という見方は出来ます。

しかし、私は懐疑的に見ています。理由は金利は先進国であれば超長期で見ると下がる傾向にあるのが共通の認識なのです。金利とは何か、といえば投資に伴う資金需要に対してブレーキやアクセルとなる道具です。企業ならば事業投資だし、個人なら住宅取得や自動車購入です。

開発途上にある国家は経済成長率が高く出ます。中国などがかつて10%を超えていたのも東南アジア諸国が6-7%の成長を遂げているのもそれは内需の拡大期で特に個人消費が旺盛になるのです。アメリカは本来であれば既に落ち着いているし、欧州や日本はほぼ終わっており、成長から「維持循環サイクル」に入っているともいえます。ところで先進国の2%のインフレ目標というのは経済が成熟したらその程度が妥当であると「感覚的に勝手に」定義づけているだけです。2%の論理的根拠はほとんど何もありません。

仮に2%程度を標準スピードの成長だとすれば7-9月のアメリカは4.9%も成長したというのはにわかには信じがたく、積極的成長ではなく「消費が消極的に増大した」と見るのが正しいのではないか、と仮説を立てています。

数ある経済の尺度の中でこの1年半ぐらいずっと着目されたのが10年物国債の利回りでした。そしてそれと歩調を合わせるように政策金利が上がっていくわけで「ニワトリと卵」の状態にあります。では10年物の国債は本当に経済の実態を表しているのか、という疑問を投げかけた人は少ないと思います。

そりゃそうです。アメリカ国債の発行残高は31兆㌦もあり、その巨大な市場ゆえに恣意的な相場操縦は出来ないのは確かです。ただ、一つ言えるのはその多くは安定的所有者なのです。31兆㌦のうち、外国が所有しているのは7.5兆㌦。うち、日本が1.2兆㌦所有し最大。問題は中国です。22年10月には中国は9700億㌦のアメリカ国債を持っていました。ところが23年8月で8000億㌦に減少しているのです。この直近の2か月の動きがわかりませんが、私は相当売っているのではないか、とみています。

もしも仮に中国の国債売りが10年物国債の利回りに影響を与えているならアメリカの国債利回りは悪い上昇に転じており、キャッチ22(ジレンマに陥り、もがいても解決できないこと)状態に陥っている可能性があります。これは実体経済を反映しない市場となり、金利をいくら上げても意味がないどころか、タコ足経済(自国民の財《ストック》を食いながらフローの表記であるGDPだけを見て景気を判断すること)になりかねないように感じるのです。

分かりやすい例え話です。日本の国債市場はほぼ国内所有者で完結しており日銀がその主導権を握っています。よって出来高が薄いのです。これは外国人の国債所有者がいないからこそ市場をコントロールできるのです。もしも仮に日本の国債を外国が持っていてそれを市場で売りに出したら市場が非常に希薄なのでボラティリティが高くなるはずです。しかし、これは国内景気というよりテクニカルな話です。ですが、日銀は金利を引き上げざるを得なくなるのです。幸い、日本ではアメリカで起きているような問題は生じません。

市場というのは数字だけ見ても分からないものでなぜ、そうなったのかをカラダで受け止めないと本質がつかめません。少なくとも私は今のアメリカの金融市場はおかしい、そして先行指標である政策金利が経済の実態と比べて下がってこないのはミステリアスというしかないのです。

金融市場って本当に奥が深いと思います。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年10月31日の記事より転載させていただきました。