経営と株価:資本効率を考えなさ過ぎる日本経済

経済学は単独の学問というより社会学や心理学などとの組み合わせがより重視されてきた学問です。研究者の間では「学際」という表現を使ったりするのですが、「学問の際」、つまり他の学問からの影響力が強い部分により研究のうまみがあったりするわけです。例えば金融政策は経済学のコアの部分で社会学も心理学もほとんど関係なく、学際の発想はほとんどありません。しかし、行動経済学などは経済学に心理学や社会学が混じる点において世の中の学問の進化を感じる部分でもあります。

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会社が成長するにあたり、どう伸ばしていくかを考える際に、コアである自社が最も強い部分をひたすら押し出すやり方(含む水平統合)と関連分野を押さえながら最終的には垂直統合を進めていくやり方があるかと思います。

前者の例としては飲食業界で多種多様な店舗展開で事業の水平展開をするのが顕著でありますが、飲食業界が卸問屋や生産地を確保するケースは少なく、一部の大手が契約農家を持ったりする程度ではないかと思います。例えば牛丼チェーン店が良質の牛肉を確保するために牛肉の生産元を自社で持つという動きはなかったかと思います。

一方、垂直統合はメーカーなどで見られ、コアになる製造品を中心に利益を極大化する手段は比較的多く行われています。自動車業界はその典型で製造本体に販売会社や修理部門は当たり前、テスラは保険会社まであります。コピー機器業界はトナーを販売するし、コンビニエンスストアも隠れた垂直型で商社あってのコンビニという感じですね。

私が日本に時折行って思うのは日本には会社が多いな、という点です。大手スーパーマーケットひとつとっても私がママチャリで買いに行ける範囲に6つぐらいあります。カナダは流通の効率化故にほぼ寡占状態。スーパーの名前が違っても実は同じ親会社というパタンでバンクーバーだけ見れば全体で5社ぐらいでほとんどのマーケットシェアを押さえていると思います。

ところがカナダに於いて消費者の行動はどうか、といえば大手を避ける人は多いのです。例えば食材を買うにあたり私は大手スーパーでは野菜はほとんど買いません。理由は流通に時間がかかり、鮮度が落ちているのです。結局、流通コストを落とすために合併を繰り返したものの流通の頻度やスピードが改善されるわけではなく、企業側のコスト減につながっても消費者側目線の鮮度は維持できなかったのです。

それでも人口減の日本に於いて11月1日時点で3913社の上場会社は多すぎると思います。上場するということはパブリックからの資金を得て投資をし、成長することを前提としています。輸出企業が多いのだろう、と思われるでしょう。経済産業省の調べでは製造業において直接輸出事業をしているのは大手企業で41.3%、中小ではわずか2.5%しかないのです。ましてや他の産業となればもっとドメスティックです。つまり日本は完全に内需の国であり、その内需が人口減と高齢化でパイの縮小が起きているのに4000社近くが上場しているということは日本の経済自体がレッドオーシャン化しているともいえるのです。

日本の株価がなかなか1989年の最高値を超えません。その理由の一つは会社の数が多すぎる⇒資本が分散⇒顧客の囲い込みも進まず⇒企業業績は跳ね上がらずということなのかと思います。

私が北米で株式投資を長年やって思うのは配当の良さです。3-4%は当たり前で6-8%ぐらいを提示する安定企業も多数あります。何故かと考えた時、資本の循環があるのだろうと考えたのです。多くの人は10代から株など投資環境を学び、経験します。社会人になれば年金の運用(401kのようなもの)を自分で行う人も多く、当然ながら資本市場に相当若い時期から入ります。資本市場の最大の目的は投資したものがリターンとなることであり、それはキャピタルゲインよりも配当重視です。

企業は配当金政策を重視し、長期に渡り増配を続けている会社もあります。配当するためには当然資本効率を上げる必要があり、経営の効率化が株主からも強く求められるわけです。

一方、日本の経営はよりユニークネスを求めているように見えます。会社案内には「弊社では…」と自社の特徴をアピールする文言がずらりと並びます。どう見ても他社と同じ商品でも「お客様、実はここが違うのです!」と猛烈にアピールします。

成田空港で毎回、会社の土産にお菓子を買うのですが、よくもこれだけ似たようなものが揃えられるな、と思います。前回日本に行ったときは地方都市を4か所ほど廻ったのですが、新幹線の駅にある土産物屋にもご当地ものがずらり。1つも買わなかったのは買う決め手がなかったからかもしれません。(全国の土産用のお菓子は香川のツジセイ製菓によるOEMのシェアが高いはずです。故にどこでも似た味なのです。)

日本の経営を「サル山の大将」ということがあります。あまり良い表現ではないですが、言わんとしているのは「お前には迎合しないからな」であります。この経営的ツッパリが日本人には強すぎると思います。少し前、エクソンがアメリカの大手シェール会社を8.8兆円で買収すると報じられていました。いつも買収側に焦点が当たるのですが、被買収企業は「買われた、負けた」と思うのでしょうか?ここが違うのです。「この売却の資金をもって次の勝負に出よう」なのです。つまりエクソンさん、色を付けて買ってくださってありがとう、このお金は大事に次の勝負で使うよ」と。

日本の企業はお互いが譲らないガチンコ勝負で体力の消耗戦となっている点が日本の株価上昇につながらない点でしょう。こだわりを重視するならホールディング会社の傘下にそれぞれの独自性を持たせた部門をぶらさげればよいでしょう。外国企業の例で挙げればフォルスワーゲンは好例でポルシェ、アウディからランボルギーニを含むブランドのデパートのような会社です。

日本が資本効率を考えるならこういう形態に変わっていく方がより望ましいのではないかと考えています。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2023年11月3日の記事より転載させていただきました。